研究課題/領域番号 |
25330330
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研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
松下 裕 金沢工業大学, 情報フロンティア学部, 准教授 (60393568)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 感性情報学 / 感性計測評価 / 時系列解析 / 動画像 |
研究実績の概要 |
映像の感性評価を的確に行うためには,ショット間の相互作用を考慮できる予測モデルの構築と適用方法の確立が不可欠である.このことを念頭に置き「一般化重み付き加法形モデル」の適用条件を検討した.動画像を用いた都市景観評価ではスカイライン波形のパワースペクトル分析により望ましい景観の要因を調べた. 1. 予測関数:以下,a, bを2つのショットとし,abによりショットa, bが順に第1,2時点で現れることを意味する.対象とする予測関数は一般化重み付き加法形モデル U(ab) = w(b)U(a) + U(b) である.ここに,wは重み関数であり,右辺第1項はショットa, b間の相互作用を表す.このモデルの適用条件を考えるために映像シーンの表記方法を検討した.昨年度の研究で,特別な元eをショットに右から掛ける(作用を与える)ことにより,ショット編集に次の意味を与える表記法を提案した.すなわち,aeでショットaの1時点促進を,a/e(eの逆作用)でaの1時点遅延を表す.この考えを拡張し,相互作用の目的(意味)別に作用素を用意してショット編集の意味づけ表記法を考案した.例えば,pを統一性向上のための作用素とすると,(ap/e)b により統一性を目的としてのショットa, bの結合を意味させる. 2. 動画像評価:屋根面が作り出すスカイラインを街区内では一定にして街区間でのみ変化させると,街区内でも街区間でも変化を与えた場合に比べて,統一性を重視する群(統一性重視群)にも重視しない群(統一性非重視群)にも高評価であることが確認されている.パワースペクトル分析の結果,街区内でも街区間でも変化を与えると平均パワーが大きくなるがそれに付随して屋根面の微小変化も多くなることが判明した.この屋根面の微小変化が街区内および街区間で変化のある景観を統一性重視群において不評にした原因であると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概ね,昨年度の「今後の研究の推進方策」に示した通りに研究を遂行することができた.まず,動画像評価については,都市景観のスカイライン波形に対してパワースペクトル分析を実施することにより,統一性重視群と統一性非重視群の両群において高評価となる屋根面形状の特性を抽出することができた.また,予測関数(一般化重み付き加法形モデルへの展開)については「推進方策」のやり方では,重みの定数から関数への一般化(wU(a) → w(b)U(a))は不可能であり単に定数項が付加されることが判明した.そこで,方針を変更して(目的別)作用素の概念を導入して重みの一般化の検討を図った.これにより,一般化重み付き加法形関数の適用条件が導出できるという見通しがたった.
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今後の研究の推進方策 |
時系列解析手法の予測エンジンとなる一般化重み付き加法形モデルの適用条件を検討するとともに,都市景観の動画像のみならず一般の映像の編集技術の心理効果の検討を行う. 1. 予測関数 今年度に提案した映像シーンの表記法に基づき,一般化重み付き加法形モデルの適用条件導出の検討を行う.具体的には,次の手順で検討する. (i) カットと作用素の積を定義し,これらの元の結合で生成される集合を考案する. (ii) 重み付き加法形モデルの適用条件との類推から,この集合に代数的性質を導入する.例えば,作用素の選好順序に関する保存則(a > b ⇔ ap > bp)と結合演算に関する保存則((ab)p~(ap)(bp))は導入するべき最も重要な性質である. (iii) これらの条件から以下のモデルが誘導できることを検証する: U((ap/e)b) = w(p)U(a) + U(b). 2. 映像評価分析 東京オリンピック招致プロモーションビデオ(PV)を例に取り,シーン構成の巧妙さの考察を行う.このPVは少年とバスケットボール選手のショット交錯が2回現れ,(ボールがゴールリングに引っかかるという)少年のトラブルを選手が助けるというシーン構成で出来ているが,このカット交錯回数が視聴者の少年を助けてほしいという感情(目的感情)にどのように影響するかを時系列解析手法により検討する.具体的には,ショット交錯回数を複数個設定した各刺激に対して,視聴者に映像に対する冗長感と目的感情の強さを回答させ,目的感情が冗長感とともにどのように変化するかを調べる.この検討により,映像心理学で言う編集効果(クレショフ効果)に関する知見を導出する.さらに都市景観評価では,街区内および街区間で形態に変化を与える場合において,統一性重視群にも統一性非重視群にも高評価を得る景観のデザイン方法について検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
マイクロソフト社より2015年度下期にWindoes X掲載コンピュータの販売が予告されており,コンピュータ性能の大幅な向上が予想される.これに伴い,画像提示システムの性能は当初想定した規格から大幅な向上が見込まれる.すなわち,メモリ,ビデオカード,および操作性において性能の向上が図られるため,動画像作成が容易になるとともに現実感のある画像提示が可能になると考えられる.以上より,画像提示システムの購入を一年間遅らせる判断を行った.
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次年度使用額の使用計画 |
Windoes X掲載のコンピュータが2015年秋以前に発売された場合,そのタイプのワークステーションを含めて画像提示システムを構成する.販売が秋以降になった場合,当初の予定通り,Windows 8のワークステーションとモニタにより画像提示システムを構成する.いずれの場合でも,今年の秋までに提示システムを稼働可能にして,その時点で最良な方法によって画像を提示し動画像の評価実験を行う.
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