研究課題/領域番号 |
25340051
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京慈恵会医科大学 |
研究代表者 |
高田 耕司 東京慈恵会医科大学, 医学部, 教授 (30179452)
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研究分担者 |
加藤 尚志 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (80350388)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 有害重金属 / タンパク凝集体 / カドミウム / ユビキチン化タンパク質 / 細胞毒性 |
研究概要 |
研究代表者は平成25年度の当初より東京慈恵会医科大学国領校の生物学研究室に赴任したため、始めに本研究に不可欠な細胞培養室や生化学実験室などの整備を行った。また、新たな研究環境の検証を兼ねて有害重金属による細胞内タンパク凝集体の形成に適する条件を検討した。 有害重金属としてカドミウムを選択し、ヒト腎由来HK-2細胞に対するその細胞毒性を評価するため、12,24,48時間の各曝露条件での半致死的濃度(EC50)を求めたところ、その値は順に200,85,70 μMと見積もられた。飽和密度を超えたHK-2細胞に対する長期間(1週間以上)曝露においてもEC50値は70 μMに収束した。 カドミウム曝露で形成される凝集体はポリユビキチン化タンパク質を含有する。そこで曝露時間と凝集体の関係を解明するため、細胞内ポリユビキチン鎖をELISAで定量してその経時的変化を分析した。その結果、HK-2細胞に毒性を示さない40 μM カドミウムでは48時間以上の長時間曝露でもポリユビキチン鎖の量に変動を認めなかった。一方、先の検討で曝露時間依存性の毒性を与えると判明した70,85,200 μMのカドミウムでは、何れの場合も曝露6時間の時点から、細胞死に先行したポリユビキチン鎖量の顕著な増加が観察された。さらにその後の推移を比較したところ、200μMは6時間、85 μMでは24時間の曝露をピークとしてポリユビキチン鎖量が減少に転じたが、70 μMでは曝露24時間以降も高いレベルを維持した。 以上の検討から、有害重金属の毒性発現に先立って出現するHK-2細胞のタンパク凝集体の調製には、70 μM カドミウムの24~48時間曝露が適切と結論された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成25年4月から研究代表者は、東京慈恵会医科大学国領キャンパス内の自然科学教室生物学研究室に赴任した。この研究室は現在までの研究活動において植物の生殖細胞を対象とした微細形態学の分野に注力してきたため、設置されている研究設備・実験機器に偏りがあり、本研究を実施する上で必要不可欠な細胞培養やタンパク分析用の機器類を新たに調達するなど広範な環境づくりが求められた。そのため、ほぼ半年をかけて、細胞培養室と実験室を整備し、4~5名の人員が培養細胞を用いて生化学・分子生物学系の実験を無理なく実施できる環境を構築した。その後、研究環境の検証を兼ねて研究実績の概要に記載した実験を行い、本研究を問題なく遂行できることを確認した。現在までの達成度において若干の遅延が生じた理由は、このような背景によるものである。幸い上述のように十分な水準の研究環境が構築されたため、今後、効率性を重視して研究の推進に努める。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究においては、新たな研究環境で確認されたカドミウム曝露による難溶性ユビキチン化タンパク質の誘導現象を軸に据えて効率的に実験を進める。具体的には、腎近位尿細管上皮HK-2細胞と神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞を70 μM前後の半致死的濃度の塩化カドミウムに24~48時間曝露してこれを試料とする。タンパク凝集体はTris-HCl緩衝液で抽出した際の残渣から回収し、抗ポリユビキチン鎖抗体FK2を用いた蛍光免疫染色で確認後、SDSを用いて可溶化抽出する。また、その定量には、特異的なELISA(Eur J Biochem 233:42-47,1995)を用いる。凝集体成分の精製・分析では、SDSが妨害物質となるため、Cycloamylose等を用いたオリジナルの手法(Anal Biochem 377:77-82, 2008)で可溶化成分の再不溶化を抑制しながらSDSを除去する。その後、本年度に調製したFK2抗体カラムを用いた免疫アフィニティー分離で凝集体の主成分である難溶性ユビキチン化タンパク質を精製する。その際、FK2抗体カラムには、凝集体と相互作用するタンパク質群もトラップされるため、段階的に強度を高めた二段階の溶出法を用いて相互作用成分と凝集体成分を分離する。 トリプシン等による精製標品の酵素消化では、再不溶化による損失を防ぐため、特定のアミノ酸や界面活性剤を添加する。構成成分の同定は、早稲田大学先端生命医科学センターに設置されているLC-MS/MS(NanoFrontier eLD)を利用する。ユビキチン鎖由来ペプチドが同定効率に影響を与える場合は、複数種類のユビキチン抗体を用いた免疫吸収を行う。MS/MSによって得られたデータは検索エンジンで自動処理しタンパクの種類を同定する。また、信号強度に基づいて内部標準に対する比較定量を行い各タンパク質の含有量比を求める。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年4月から研究代表者は、東京慈恵会医科大学国領キャンパス内の自然科学教室生物学研究室に赴任した。この研究室は現在までの研究活動において植物の生殖細胞を対象とした微細形態学の分野に注力してきたため、設置されている研究設備・実験機器に偏りがあり、本研究を実施する上で必要不可欠な細胞培養やタンパク分析用の機器類を新たに調達するなど広範な環境づくりが求められた。そのため、半年の時間をかけて、細胞培養室と実験室を整備し、4~5名の人員が培養細胞を用いて生化学・分子生物学系の実験を無理なく実施できる環境を構築した。その後、研究環境の検証を兼ねて研究実績の概要に記載した実験を行い、本研究を問題なく遂行できることを確認した。次年度使用額が生じたのは、このような背景から実験計画の一部を次年度に移行させたためである。 次年度使用額は以下の実験計画のために使用する。半致死的濃度のカドミウムに曝露したSH-SY5Y細胞の凍結保存試料をTris-HCl緩衝液で抽出し、その残渣を調製する。残渣中のタンパク凝集体を抗ポリユビキチン鎖抗体FK2を用いた蛍光免疫染色で確認後、SDSを用いて可溶化抽出する。凝集体成分の精製・分析では、SDSが妨害物質となるため、Cycloamylose等を用いた独自の手法(Anal Biochem 377:77-82, 2008)で可溶化成分の再不溶化を抑制しながらSDSを除去する。その後、FK2抗体カラムを用いた免疫アフィニティー分離で凝集体の主成分である難溶性ユビキチン化タンパク質を精製する。その際、FK2抗体カラムには、凝集体と相互作用するタンパク質群もトラップされるため、段階的に強度を高めた二段階の溶出法を用いて相互作用成分と凝集体成分を分離する。
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