研究課題/領域番号 |
25340074
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
齋藤 敦子 東邦大学, 理学部, 准教授 (50424718)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 多環芳香族炭化水素 / 環形動物 / 環境浄化 / 環境分析 |
研究実績の概要 |
本研究は、環形動物イワムシ(Marphysa sanguinea)糞中に含まれる、難分解性有機化合物分解酵素の単離と環境浄化への応用を目的として行った。平成25年度は、炭素源として難分解性有機化合物の一つであるピレンのみを含む選択培地を用い、イワムシ糞中よりピレンを分解・利用可能な数種の微生物の単離に成功した。平成26年度は、これらの微生物の内、選択培地上での生育が特に良好であった一種類について、全ゲノム解析を行い、相同性が非常に高い菌種の存在を確認した。また、これらの微生物を用いて、液体培地中でピレンの分解実験を行った。その結果、どの微生物を用いた系でも、培地中のピレン濃度の低下とピレンの分解生成物の一つであるヒドロキシピレンの生成が確認されたが、ピレンの半減期は数日と見積もられ、糞中で確認された2時間での高速分解を再現することは出来なかった。これは、糞中でのPAHの高速分解に、糞中の共存物質や、数種の微生物が複雑に関与している為と推測された。そこで平成27年度は、マトリクスとしてグルコースを培地に加えたところ、ピレンの分解速度の上昇を確認した。また、これまで菌種が同定されていなかった3種の微生物について、16S rRNAを用いた遺伝子解析を行ったところ、いずれも石油分解菌として知られている微生物であることが分かった。平成28年度は、これらの微生物を汚染底質に添加後実験室内で10日間放置し、底質中8種PAHsの濃度変化を調べた。しかし、分析試料ごとの定量値の差が大きく、十分な議論を行うことが出来なかった。また3種の微生物について、液体培地中でのピレンの半減期を求めたところ、約3日から10日と見積もられた。これらについては、今後、再実験及び再現性の確認が必要であると考えられる。また、グルコースを添加した系での分解速度の変化は、本年度の実験では再現することが出来なかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
難分解性有機化合物の一つであるピレンを分解・利用可能な4種の微生物を単離し、すべてについて種の同定が終了した。単離した微生物を用いたピレンの分解実験では、ピレン濃度の減少と、分解生成物の検出に成功したが、ピレンの高速分解には、マトリクスや複数の微生物の総合的な関与が必要であることが分かり、検討すべき実験内容が増加したと共に、再現性の確認に多くの時間が必要となった。また、単離した微生物の汚染底質への添加実験では、分析試料ごとの定量値の差が大きく、十分な議論を行うことが出来なかったため、今後、実験系の見直しや再実験が必要と考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに単離を行った微生物を、実際の環境試料(多環芳香族炭化水素や難分解性の界面活性剤による汚染度の高い底質など)に添加し、環境試料中のそれら汚染物質濃度の経時変化を実験室環境下で調べる予定である(H28年度の再実験)。また、これらの微生物を用いたin vitroでの有機環境汚染物質の分解実験も、微生物条件(単一または混合系)や培地条件(糞抽出液等の共存成分の添加)を変化させて、引き続き行う予定である。分析には、ガスクロマトグラフ質量分析計、液体クロマトグラフ質量分析計、高速液体クロマトグラフィー、分光光度計等の分析機器を使用する。また、これまで実験に用いてきたイワムシに、数種が混在している可能性があり、DNA解析を用いて、これらの種の相同性についても調べる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究協力者の移籍や実験内容の再現性が得られなかったことにより、予定していた実験計画の進行が遅れ、次年度使用額が生じる結果となった。
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次年度使用額の使用計画 |
昨年度までの研究で、再現性が得られなかった部分について、再実験を行う予定である。
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