本課題ではまず,社会学,人類学,民俗学等の学術領域における文献調査と,研究者に対するインタビュー調査を実行し,映像利用に関する目的,手法,成果などについて整理を行った。そこで質的リサーチにおける映像利用を「記録・分析」時と「提示」時の段階に二分し,前者における特性を「1.記録者の,フィールドに対する『当事者意識』の涵養」,そして後者を「2.記録物がもたらす『共感』的情報のメディア上の再配置」と位置づけた。これらの概念をデザイン学における実証研究に必要な仮説的原則と位置づけ,アメリカの「Storycorps」プロジェクト(オーラルヒストリー・アーカイヴ)とイギリスの「FIXPERTS」プロジェクト(日常的困難をデザイン提案によって改善)等の先行事例の分析を実施し,「1」と「2」の作用の往還を担う映像がソーシャルデザインとして機能する構造を明らかにし,学会発表を行った。 また最終年度は,デザイン学における実証研究を行うために上記「1」「2」を検討の軸に,日本の「折ること=folding」に関する調査実践を展開した。ここではデザイン学の大学生・大学院生の協力を得て,関西圏を中心に取材先を設定し映像によるリサーチを行った。結果を京都工芸繊維大学で開催した展覧会「ORI* CODE FOR MATTER」で一般公開した。学生らは既知と未知の間にある「折ること=folding」に触れることで,その文化・技術などに対する理解を深めた。これは上記「1」の映像利用に通じるものである。またフィールドでの印象や経験に基づいた映像はテーマ毎に編集され,来場者の関心に応じて閲覧できる簡易的な映像データベースとなった。これは上記「2」の映像利用に該当する。「1」と「2」の作業によって得られた成果は,詳細な効果測定を含め,今後のデザイン学における,より統合的な映像利用の検討に活かしていく予定である。
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