インドネシア・スマトラ中部の東岸は広大な泥炭地で構成され、泥炭地開拓は有用樹栽培と連動して展開してきた。栽培樹木からの産物はマラッカ海峡対岸のマレー半島やシンガポールに運ばれ、その生産・流通・消費にはさまざまな民族、市場や制度が関係してきた。本研究は、有用樹栽培の分布と変遷、生産地におけるコニュニティの構成、流通・消費地における社会背景、国家政策・法制度に注目しながら、泥炭地開拓のダイナミズムを描き出すことを目的としている。 平成27年度は3回の現地調査を実施した。2015年9月にはジャカルタ市内の国立図書館や諸官庁にて関連文献と統計資料を収集した。また、2016年2-3月にはシンガポールの国立文書館において、19世紀末から20世紀半ばにかけての報告書を閲覧し、主要有用樹の栽培状況に関する資料を収集した。一方、2015年12月-2016年1月にかけて、リアウ州ブンカリス県ブキット・バトゥ郡の村落にて聞き取り調査を行った。同地域の人びとは、交易や出稼ぎのため1990年代まで頻繁にマレー半島との間を往来していた。ある村びとは1980年代前半にマレー半島の民間アブラヤシ農園で労働者として働いた後、帰国時にアブラヤシの種を持ち帰るとともに、スマトラの村落で栽培していた。このように、個人レベルであれ、1980年代前半という早い時期にマレー半島からもアブラヤシの移入があったことがわかった。また、近年ではアブラヤシおよびゴムの買取価格が低迷し、これらの栽培を放置し、漁撈に移行している世帯や、マレーシアへの出稼ぎを再開している世帯もあることが明らかとなった。今後は、現地での聞き取り調査で得られた情報を整理し、この間に収集した文献資料と重ねながら、住民の生計活動における有用樹栽培の動態と泥炭地開拓の展開過程について検討を加える予定である。
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