本研究では、東南アジア大陸部の手工芸のうち、タイ系諸族やその他の民族集団によって、植物素材から作られるモノ[プラント・マテリアル]をとりあげ、地域の生態環境、地域の社会関係、製作者の生活実践、商品としての需要と流通の4点に着目しながら、その製作の実態を分析した。 現地調査:落合が織布について、ラオス、ポンサーリー県のカム人集落で、繊維植物クズの利用方法とそのプロセス、製品の社会的意義などについて、情報を資料を収集した。その結果、1)繊維植物が、食素材を含めた地域の野生植物利用の全体像の中に位置付けられること、2)クズ繊維を伝統的技術に基づいて制作する実践が、社会的なつきあいの中で存続していることとが明らかになった。また飯島が漆器について、ラオス、ルアンパバーン県のラオ人の工房において、ウルシ樹脂の入手経路、製品販路ネットワークなどについて聞き取りを実施した。その結果、技術移転の歴史や分業体制、職人の移住などについて実態を把握することができた。 成果の検討と統合:龍谷大学で研究会を開催し、谷祐可子氏(東北学院大学)がミャンマーにおけるウルシ樹脂の生産状況について、落合、飯島が本研究の成果について、それぞれ発表した。これにより、素材産地での生態資源管理上の問題、流通を支える人的ネットワーク、製品の製作や販売状況などについて考察を深めることができた。 成果公開に向けて:本研究の研究成果として浮かび上がってきた「植物素材の利用に関する変容過程」について、社会に広く公開することを目指し、Traditional Arts and Ethnology Center(ラオス)のTara Gujadhur氏およびTonKhoun Soutthivilay氏と落合が研究打ち合わせを実施した。これにより、展覧会展示手法による研究のアウトリーチの意義とその可能性について検討することができた。
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