平成27年度は本調査の最終年度にあたる。研究実施計画に基づき、これまでの成果を論文・著作の形式に取りまとめる作業に着手する一方で、前々年度から継続中の調査を引き続き進めた。 論文については平成26年度の成果を「サン・サヴァン・シュル・ガルタンプ修道院付属教会堂の黙示録図像再考―「蝗の禍」「女と竜」「再臨のキリスト」をめぐって―」として発表した。特にサン・サヴァンの黙示録図像の後代への伝播は、12世紀後半の英仏プランタジネット朝の血縁と領土の広がりの中で捉えることができ、本研究の方向性が間違っていないことを示す重要な並行事例となった。 継続中の調査については、11世紀後半から13世紀初頭にかけて英仏両国で制作された一群の詩篇本序章挿絵について、さらなる検討を続けたところ、ここには『キリスト受難伝』だけではなく、『キリスト幼児伝(特に降誕)』についてもある一定のプログラムが共有されていることが考えられ、それはルーアンに残る「降誕の典礼劇」のテキストを最もよく反映したものであることが明らかとなった。またそれを例証する新たな作例もルーアン近郊のプテ=ケヴィイー、サン・ジュリアン教会堂壁画に見出すこととなった。 一方、同時期に英仏プランタジネット朝領土内で制作された大型聖書本の挿絵についても、詩篇本挿絵ほどは明確ではないものの、やはり12世紀末に制作されたいくつかの作品について英仏プランタジネット朝の影響を想定することとなった。これらの作品はいずれも1200年様式とよばれるスタイルを示しており、12世紀後半のプランタジネット朝美術の発展と1200年様式の成立にはやはり深い関わりがあったことが明らかとなった。このプロセスにおいても典礼劇の果たした役割は看過できないものがあると考えられ、これらの点を成果として現在まとめている。
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