礼楽思想に基づく勅撰的な詩歌集の存在の可能性については、東アジア圏における近似の類例を他に見出すには至らなかったが、 『古今集』真名序を規範とする和歌勅撰の思想的背景解明のための歴代真名序の注解作業のうち、これまで不十分であった『新古今和歌集』~『新続古今和歌集』真名序注の第二次手稿を作成した(未発表)。 これまでの検証結果から、本研究で推進してきた手法が有効で不可欠のものであるとの確信を強めるとともに、(ア)古典研究には、テキストの分析者側に、作品成立当時の思考法(暗黙の前提的思想基盤)の復元的共有が不可欠であること、(イ)フォーマルな文学領域だけでなく、より通俗的な作品群に対象範囲を広げての検討が必要であるとの認識のもと、研究期間の1年延長を許可された機会を生かし、これをさらに推進した。(1)平安前期における集団表象としての「神仙ワールド」の復元による初期物語文学の成立のプロセスやテキスト解釈に新生面を拓く成果として、「方術の描かれる物語――『竹取物語』を読みなおす」、「『竹取物語』の漢文世界―物語文学における典拠・材源論に向けて―」の論文を発表。(2)「国風研究会」に参加し、高麗史、古代法制史、仏教美術史等の隣接諸分野の研究者との討議を経て、外来文化の摂取・受容における自国文化の変容動態についての学際的な知見を広めた。(3)招待講演「日本古典研究における昭和50年~60年代」(国際会議「戦争と平和―昭和天皇の日本」ワルシャワ大学図書館)、「日本古典研究の方法」(北京日本学研究センター)に参加し、国外の日本古典研究者との研究交流をおこなった。(4)中央欧州における日本学の国際会議の企画に参画し、外来文化との接触を通じたナショナリティーの創出に関する総合的な国際会議の準備に協力した(国際交流基金の支援を受け、本年10月にワルシャワ大学にて開催する運びとなった)。
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