「所有権」の観点からディケンズの2度の訪米体験を再考した結果、次の成果が得られた。(1)初渡米時の彼を激怒させたもの(国際著作権の不在、名士扱い、奴隷制)はいずれも(自己に対する)所有権を奪われる不当さに関わる問題であったことが明らかになった。(2)第一次訪米直後には、アメリカのメディアに見られる黒人奴隷の身体に加えられる暴力表象の野蛮さに激昂していた彼が、第二次訪米時には〈黒人には選挙権を有する資格なし〉という見解を漏らしているが、この「変節」を1850年代から1860年代におけるヴィクトリア朝人種観の変容の中に位置づけることができた。
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