研究課題/領域番号 |
25370424
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
御園生 保子 東京農工大学, 国際センター, 教授 (00209777)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 東京アクセント / 平板型アクセント動詞否定形ト / 旧東京市15区内生育 / 80代 / 伝統的アクセント / 規則的アクセント |
研究概要 |
東京方言における動詞の否定形について、原則として旧東京市15区内で生育した昭和一桁生まれの高年齢層の話者27名を対象に、平板型アクセント動詞と起伏型アクセント動詞各4語のアクセント調査を行った。その結果、戦前に東京区部で言語形成期を過ごした話者の間に、平板型アクセント動詞否定形について伝統的アクセントと伝統的でないアクセントの両方が出現することがわかった。 起伏型動詞否定形は調査項目(否定形言い切り、+終助詞、+接続助詞、+助動詞等、全31の形式)のほとんどの項目で話者間で高いアクセント核の一致度を示した。平板型アクセント動詞ではアクセント核の一致率が形式によって異なる。動詞否定形末尾に低くつく助詞類(ノ、カ、ノカ、カラ、ノデ等)の場合、動詞+ナ↓イのようにナの後ろに下がり目を持つの回答がほとんどで、話者間の一致率も高い。それに対して、言い切り、断定、可能形、使役形、ヨ、ネ、ト等計14形式の場合、伝統的アクセント通りに動詞否定形が平板型になる話者と、伝統的でない動詞ナ↓イの形になる話者とがあった。 平板型アクセント動詞4語の上記の14形式ほとんどすべてで平板型で答えた10名の話者は、自身が東京15区内出身and/or両親のうち一方が15区内出身の人が多く、両親とも東京外の出身の人は1名だった。14形式のほとんどすべてでナ↓イの形で答えた話者には両親とも東京外出身の人が多いようである。ナの後ろにアクセントの下がり目のあるアクセントは、動詞否定形末尾に助詞が低くつく場合のアクセントとも一致する。後続の助詞等によってアクセントの位置が変わる伝統的アクセントより規則的で、助動詞類を除いたすべての項目に適用できる。そのことが平板動詞否定形でナの後ろで下がる形式が用いられる要因になっているのではないかと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
25年度の目標である高年齢層の調査はおおむね達成できた。他の資料の調査(日本語話し言葉コーパス)の調査は手がついていない。そのため、やや遅れていると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
東京の人口移動は激しく、代々同じところに積み続けている人は、とくに中心部では多くない。25年度の調査でも関東大震災で家を失ったため、日本橋や銀座に住んでいた人が15区外に移住した例があった。第二次世界大戦を契機に住む場所を変えた人、その後の経済発展期に郊外へ移った人が多かった。どういう人を東京方言の話者と考えるかが一つのポイントになるが、一年目の結果を受け、23区内生育、両親の一方が東京出身という条件で、若年層(主として20代)、中間層(60代、50代)の動詞否定形アクセント調査を続け、東京における動詞否定形アクセントの実態とアクセント変化の動向を明らかにしていきたい。 80代の話者に現れていた平板型動詞否定形アクセント(Vナ↓イ)の形式は、伝統的アクセントより規則的で生産性が高い。また、東京の周辺地域で行われている形式でもある。若い人ほどナ↓イになっているのではないかと予測している。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究補助員として他大学の修士学生にアクセント調査の補助を依頼してあった。ところが当該学生が腰痛を発症して長期にわたり働くことができなくなってしまったために都内交通費を含め、謝金を使うことができなかった。 調査補助のほか、一貫した聞き直しを経験者に依頼するなどして資料の質を高めるために人件費を使う計画でいる。
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