研究課題/領域番号 |
25370424
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
御園生 保子 東京農工大学, 国際センター, 教授 (00209777)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 平板型アクセント動詞 / 否定形アクセント / 年齢による差 / 平板にいう範囲 |
研究実績の概要 |
東京方言では平板型アクセント動詞の否定形は平板型と言われてきた。現時点での平板型動詞否定形アクセントの様相を明らかにするため、1920年から1995年に生まれた話者(戦前は15区内生育、戦後は23区内生育)計54名に、動詞否定形言い切りのほか、助動詞、終助詞、接続助詞が後接する形式について、例文読み上げによるアクセント調査を実施した。その結果、①平板型動詞否定形が平板型で実現する形式は限られている。②動詞否定形アクセントには年齢による差が見られるの2点が分かった。年齢による差は否定形を含む述語部分をどこまで平板にいうかに現れる。年齢の高い話者は、動詞否定形+接続助詞、助動詞、引用の「と」に続く述語等、平板型を取る範囲が広い傾向にある。戦後生まれ、とくに1960年以降の生まれの話者では、動詞活用語尾(受け身、使役、使役受身等を含む)の範囲では高い確率で平板型に発音するが、動詞に後接する助詞、助動詞まで続けて平板に発音すること少ない。また、高齢者では平板型動詞否定形の平板化率に個人差が大きいが、若い世代では個人差が小さく、動詞活用形は高い確率で平板型に発音する。これらの後接型式による平板型アクセント実現率の違い、年齢による平板型を取る範囲の違いはこの調査で初めて明らかにされた。 こういった現象の背景には、明治以来東京では母方言話者より流入人口が多いこと、関東大震災、戦災による母方言話者人口の減少と人口移動、戦後の高度成長による血縁、地縁の弱まり、全国的な共通語化の進捗といった社会的要因が働いていると考えられる。 インフォーマントは全員生え抜きでいかにも東京人らしい話し方だったが、そのことは個々の形式のアクセントがアクセント辞典の記述通りであることを保証するものではなかった。このことはインフォーマントのアクセントの誤りというより、東京方言のアクセントの特徴と考えるべきことと思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
調査に協力していただいた方に、調査結果をパンフレットに作って配布する予定でいたところ、 結果をまとめるのに時間がかかり、パンフレットができていない。 資料の分析にもちろん時間がかかるが、専門知識がない人にも、結果のおもしろさをわかってもらうために何をどこまでどう書くかが難しく、苦労している。
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今後の研究の推進方策 |
この調査については、①パンフレットを作ってインフォーマントに配布する。②東京方言の音声資料を残すの2点を考えている。 ②は具体的には、東京方言らしい高年齢の話者の会話の質の高い録音を残して、音声資料として公開する。若い年代の話者についても同様の資料を残す。
東京方言の動詞アクセントについては、旧15区内生育、23区内生育の方の資料であれば、両親の出身にかかわらず、現在の東京方言成立過程を明らかにするための資料となることがこの調査でわかった。今後はそういう方針で調査を進めていきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
分析がとどこおってパンフレットを作ることができなかったことが大きな原因である。なぜとどこおったか。従来の東京方言観では説明できない現象の分析が難しかったためである。国際学会での発表も予定していたが、分析の遅れ等諸般の事情でかなわなかった。東京方言の元である江戸言葉を土着の言葉ととらえるのは難しい。土着の要素を残しつつ外来の方言とまざってできたのではないか。
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次年度使用額の使用計画 |
結果をインフォーマントに興味を持ってもらえる内容のパンフレットに作り、配布する。印刷費、郵送費、名簿代等。成果を国内の学会で発表する(旅費)。また、適当な国際学会でも発表し、論文にまとめる(応募費用、旅費)。
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