固有名詞に関する一見相反する解釈(1-2)を統合する固有名論を構築した。(1) 固有名とは個体という抽象度のもっとも低い単純な存在物につけられた名前である。それゆえ、固有名がもつ単称性は低次概念である。(2) 0歳の人物Aと80歳の人物A、あるいはスーパーマンとクラーク・ケントを同一人物と認識し、単一の固有名で指すのは人間だけである。それゆえ、固有名がもつ単称性は高次概念である。通常、個体はその属性によって認識される一方で、「スーパーマン = クラーク・ケント」のような同一性言明を理解するためには、矛盾する属性の背後にある個体を想定する必要がある。これが個体概念の二重性の源泉にほかならない。
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