研究概要 |
サマルカンド出身のロシア語単一話者への聞き取りを目的として2回の調査を行った。9月には20歳代の教諭から「サンクトペテルブルグで働いている弟が、帰省するたびに”ペテルブルグではそうは言わない”と言って私たちの言葉を直す。例えば私たちはDa(=Yes), Khorosho(=Good), Ladno(同)の意味でKhаiと言うが、あそこではそう言わないと言う。また、私たちの話し言葉では普通年下のbrother, sisterをbratishka, sestryonkaと言い、年上のbrother, sisterをbrat, sestraと呼ぶが、ロシアではこの区別をしない」 との証言を得た。これは同地のウズベク語・タジク語両者にまたがる広域方言語彙であるKhаiや、非ロシア人のロシア語で一般に行われている兄/弟、姉/妹の区別が同地のロシア人の話し言葉に入り込み、ロシアのロシア語にないことに気付きにくいほど当然の現象になっていることを示す。12月には英語が堪能な30歳代の米国企業管理職に会い、非ロシア人のロシア語に共通して見られる、時の従属接続詞kogda(=when)が文頭ではなく文頭から2番目の位置を取るという特徴を含んだ文を作って聞かせ、許容されるかを尋ねた。この際、これまでの観察で頻繁に見られた従属節の主語が文頭に来る場合のみならず直接目的語が文頭に来る場合でさえもkogdaを文頭から2番目の位置に置くことについて肯定する一方、syuda(=ここへ)という副詞を文頭に置き、kogdaを2番目に置いた文については強く否定し、同席のウズベク人協力者(40歳代)も同じことを言うという出来事があった。この事実は、シンタクス面においても非ロシア人のロシア語がロシア語単一話者の話し言葉に強く影響し、ロシアのロシア語にはない文法規則が発生していることを示す。
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