本年度(平成27年度)は当初の研究計画に従って研究を進めた。重点的目標とした海外の研究者との研究交流・成果交換に関しては、6月に「メディアと歴史国際学会」、8月に「国際歴史学会議」に参加し、前者においてメディア空間のヴィジアル化とデジタル化が歴史認識にどのような変容をもたらしているかについての試論を提供した。 また東洋大学人間科学総合研究所プロジェクト「歴史研究の新展開」をとおして招かれたベルベル・ビーベルナージュ、シュテファン・バーガー、エルヴェ・アングルベール、ジェローム・デ・グルートらとの共同討議の場の司会をつとめ、当研究課題であるグローバリゼーションが進行する中での文化的空間の変容に伴う過去認識のあり方についての議論を行った。 こうした活動と並行するかたちで、研究最終年度である本年度は、研究成果を総括するものとして、論文集『歴史を射つ』を共同編集者である鹿島徹・長谷川貴彦、渡辺賢一郎、執筆者であるヘイドン・ホワイト、ピーター・バークらの協力を得て刊行した。この書物は、映画やゲームといったサブカルチャーを含めて広い文化的空間のなかで歴史がどのようなかたちで存在しているかを考察したもので、本研究の目的に十分適合している。 またこうした歴史に対する考え方の変化が、実際的な歴史研究にどう関連付けられるのかという問題も本研究の前提とされていた問題である。本年度は、研究代表者が歴史研究者として基本的な研究課題としてきたイギリスの民衆運動〈チャーティスト運動)を例に、そうした問題も合わせて考察し、その成果を明らかにした。 出版事情の困難さから、既に執筆・投稿を終えている英文論文や総括的な著作の刊行は期限内に果たしえなかったが、それに代わるものとして『歴史を射つ』の刊行を始めとして、一定の問題提起と成果公表をおこなうことはできた。
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