資料保存機関に収蔵されているアーカイブ資料の中には、そもそもの素材としての寿命が短い記録素材が含まれる。例えば彩色資料の緑青や複写資料の酸化亜鉛紙などはとくに経年劣化しやすく、近年では没食子インクの劣化も深刻化している。これらは劣化が進行すると腐食して支持体である用紙ごと崩れ落ちてしまう「焼け」といわれる症状を呈する。現在のところ、多くの資料に対しては保管環境の改善による劣化抑制の措置がとられているにすぎない。本研究では、積極的にこれらの劣化を抑制する方法の探求を進め、また大量のアーカイブ資料に混在する経年劣化の懸念が大きい資料を積極的に保全するシステムの構築を目的として進めてきた。 アーカイブ部門や文書館において経年劣化しやすい顔料や記録素材を含む資料がどの程度劣化しているか、またどのような環境で保管されているか、などを実地調査し、保存処理や保管上でのニーズを把握した。その調査データを参考に短命資料の劣化サンプルを作成し、それらを暴露試験および劣化促進試験をして、各種短命資料と各種保存処理方法の適応性を確認した。またアーカイブにおける調査のための実用的なツールとして、劣化調査キットを試案し、そのキットを活用して試験的調査を実施した。 劣化状況をチェックするための簡易手法は、所蔵機関の運営体制に応じて実用可能である。しかし、実際に海外のアーカイブでも、混在する記録資料の中から特定の短命資料を抽出して保存処理および劣化抑制処理を施すことは、技術的には可能であってもシステム的に推進されている状況ではなかった。 また、資料保存機関以外でも多くの短命資料が残されている。先行事例をつくり結果を公開していくことで、個々の状況に合わせた手法が工夫され普及していくと考える。
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