研究概要 |
本研究は,フランス第二帝制下における帝制権力の統治理念とその機能を,地域権力との関係性構築という局面に注目し,帝制権力の地方次元における代理者である県知事とその管轄地の域権力保持層との関係にアプローチすることを目的とするものである。このため本年度は,(1)帝制の万博政策について,歴史的位置づけに関する既存研究をサーヴェイし,(2)地域利害の分析に着手することとした。このうち,主たる作業は(2)である。 (2)の側面については,1855年パリ万博をめぐるボルドーでのワイン業利害の動向を探るため,関係史料の収集ののち,ボルドー商業会議所の議事録を分析した。ここでは,1854年から55年にいたる議論を追ったが,同時期の葡萄樹のウドンコ病による災禍もあり,砂糖関税や外国産ワイン輸入関税の問題が大きくとりあげられ,この解決を政府に強く要求する姿勢がめだつことがわかった。商業リーダー層にみるこのような動向を,1855年のパリ万博へのワイン出品,およびボルドーワイン格付制定とあわせて考えれば,今後の作業において,ワイン業利害をつうじて地域権力の歴史的特質をより鮮明に析出できるのではないかとの感触を強くもった。この過程では,地域権力における農業諮問会議所の役割が軽視できないのではないかとの考えも強くなり,ジロンド県の事例に限定してではあるが、この組織の制度的位置づけ,および当該組織と帝制権力(県知事)の関係について検討し,地域権力の相対的自律性・能動性と,それに対するジロンド県知事(=帝制権力)の一定の依存性とを析出することができた(その成果は論文化)。 なお,次年度から本格的にとりくむこととなる,比較対象としてのブルゴーニュ地方の分析にむけて,ディジョンでの史料調査に着手し,一定の成果を得た。
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