本研究は、古代東アジアにおける櫛の系譜と用途を検証し、特に副葬品としての櫛に着目することで、古代東アジアにおける葬制の一端を解明することを目的とする。これまで東アジアをフィールドとした櫛の研究では、その起源および系譜、用途について体系的な検討が行われてこなかった。そのため、日本、中国、韓半島の資料を比較検討の際に、必要である共通の基準を欠き、作業に支障を来す場合もあった。こうした状況を受けて、本研究では当該地域における比較研究の基礎を作ることも課題のひとつとする。 本研究期間を通して、高興野幕古墳および大成洞88、91号墳など、韓半島において新たに確認された櫛を実見する機会を得た。また、軍守里耕作遺跡から出土した「双歯櫛」“Double-sided comb”(両端に歯を有する形態の櫛)についても調査を行った。これらの櫛が示すように、韓半島には多様な系譜の櫛が存在する。これらの系譜を辿ることで、当時の韓半島と周辺地域との交渉を検討した。 なお、平成27年度は、韓国国立全州博物館において竹幕洞遺跡出土祭祀遺物の調査を行なうとともに、日本国内でも熊谷市西別府遺跡出土櫛形石製模造品を実見し調査を行った。櫛は、埋葬に伴う遺構から出土するとともに、祭祀的要素が強いとされる遺構からも出土する。特に奈良時代以降は溝や井戸で、木製祭祀具と共伴する状況が多く見られる。今後は、こうした、祭祀遺跡における櫛の出土を評価し、その性格を検討することで、埋葬に伴う櫛と合わせた総合的理解に繋げて行きたい。また、正倉院文書の「買新羅物解」の記載に着目し、その内容から、奈良時代に新羅からもたらされたとされる櫛の用材と形態を検討した(1)。 (1)木沢直子「正倉院文書「買新羅物解」にみえる「梳」とその用材」『元興寺文化財研究所研究報告2015』(公益財団法人元興寺文化財研究所 2016)77-89頁。
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