緊急事態法は、秩序維持の名の下、諸々の基本的人権や自由、民主的な決定過程、その他通常の法的手続の制限や中断を可能とする。本研究の目的は、従来の理論蓄積や内外法制の検討を通じて、緊急事態法制が「悪法」へと転化しないための条件を明らかにすることであった。危機的状況下においても「万人の万人に対する戦争」とはならず、それゆえ緊急事態法制の発動が不要となるためには、「平時」における強靱な市民的法=政治文化が重要であり、「法の支配」と立憲主義の尊重がその鍵となる。しかし、日本を含む東アジアでは、道具主義的な法文化が妨げとなってきたばかりか、ポスト9.11の今日では、国際政治上の影響も念頭に置く必要がある。
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