研究課題/領域番号 |
25380098
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
酒井 太郎 一橋大学, 大学院法学研究科, 教授 (90284728)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 会社法 / 取締役 / 信認義務 / 注意義務 / 忠実義務 / 誠実義務 / グッドフェイス |
研究概要 |
1. 取締役の誠実性(グッドフェイス)欠如が認められる具体的状況を把握するため、米国デラウェア州の会社法主要判例を概観して代表的論点の把握に努めた。ここでは、法令遵守体制整備にかかる取組みが行われておらず会社損害を招致した場合と、個別の重要取引案件の承認・検討にかかる真摯な検討を欠いたために逸失利益を生じた場合とに問題状況が区別され、最近では後者の系統の事案において取締役の完全な不作為を要求して責任認定が容易に行われないよう配慮する傾向が見いだされた。その背景として学説は、グッドフェイス欠如の例証とされる未必の故意や認識ある自己の職責の放棄を、注意義務違反(帰責性要件としてのグロス・ネグリジェンス)と概念上明瞭に区分することが困難であり、注意義務違反を上回る帰責性を与える付加的要素(たとえば経済的利害とは別の利害関係)にかかる研究が萌芽的なものにとどまることを指摘している。 2. 基礎理論研究の一環として、取締役が信任義務を負う根拠および義務の相手方に関する文献の調査・分析を行った。その際、(1)信託法理と会社法学における信認義務の内容の共通点・相違点、(2)取締役が株主に対して義務を負うと説明されることの法的意味、(3)会社自体の利益、株主の利益、そして会社利害関係者の利益という区分、およびこれらのうち、取締役が一定の裁量をもって考慮することのできる義務と、特定の利益を考慮しなければならないとされる状況(いわゆるレブロン義務を生じさせる状況)といった論点を設定した。 上記の研究の過程で得られた知見はいまだ断片的なものに過ぎないが、そのいくつかは(1)中国清華大学法学院における研究発表(2013年10月)、(2)会社法の基本政策と、取締役の義務規範およびコーポレート・ガバナンスに関する初学者向けの解説(雑誌「法学教室」での連載記事)においても言及されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
誠実性概念が問題となる紛争事案を取り扱った米国会社法判例と、これを手がかりとして展開される学説上の議論の所在はおおよそ研究代表者においておおむね把握されている。そこから得られた知見は、目下、研究計画において設定された分析枠組み(誠実性概念の定義、および取締役の信認義務違反にかかる帰責事由の具体的諸類型との相関関係)の中でいかなる意義づけを与えられるか初歩的検討を加えられている途上にある。また、学説上の主要な議論が信託法理や法人本質論などの基礎理論と関連する形で行われていることに着目し、この点についても少しずつ調査と検討を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
最新の判例・学説状況は逐次把握に努めているが、それが分析枠組みにおいて持つ意義を理解するには、取締役の信認義務の理論的基礎にかかる検討が欠かせず、またそこでの検討はこれまで得られた諸事実・諸学説の体系的理解に役立っている。そこで、取締役が信認義務を負う根拠および義務の相手方にかかる分析、および誠実性概念の把握に注力し、研究成果のとりまとめに役立てたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
必要な洋書の刊行スケジュールやセットでそろえた際の金額の大きさなどを勘案して、支出が抑制的に行われたため。 次年度使用額を合わせた潤沢な予算で、研究に必要な各種書籍・資料および機器類の購入を意欲的に行うとともに、研究発表のための旅費使用にも努めたい。
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