本研究は、注意義務違反の認定基準との対比において、利益相反以外で忠実義務違反を導く帰責事由として取締役の主観的態様を米国会社法学の議論を参照しつつ検討し、未必の故意その他の具体的認識が求められていることを明らかにした。また、取締役個々人の認識にとどまらず、たとえば責任追及に対する懸念といった取締役会メンバー全体の心理的バイアスも問題となりうることが明らかとなった。ただし、株主代表訴訟の事前の提訴請求の存否をめぐる判例からも分かるように、グッドフェイスその他、取締役の主観的態様にかかる非難可能性の認定をめぐり裁判所の姿勢は相当程度謙抑的であり、取締役の判断を尊重する傾向が強いといえる。
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