親の子どもに対する医療ネグレクトの問題の中核には、生命観・宗教観・医療観などを背景とし様々な理由で子ども-親-医師の間で生じる「三面的」で複雑な「関係障害」があり、これが悪化すれば子どもの死亡という最悪の結果も生じうる。これに対し、いわば「事後的紛争介入法」の典型である刑法は、三者間の「関係障害」が膠着状態に陥り治療拒絶が法的紛争として確定化し、この帰結として子どもが死亡するなどの事後的な(ex post)局面に刑事処罰をもって介入するものであり、この時点ではもはや子どもにとっては法益回復が不可能である。これに加えて、たとえばドイツの判例理論における「治療行為論」の下では、刑法は、医療ネグレクトのもたらす回復不可能な結果を回避する医師の行為さえをも「専断的治療行為」として違法とするのであって、「治療行為禁圧法」として機能しかねないものとなる。そこで、このような医療ネグレクトへの対応における「事後的紛争介入法」の限界性と問題性を超克するために、予防法学的な視点に立脚し、子ども-親-医師の間の「関係障害」が未だ固定化していない事前的な(ex ante)局面に関与し、これら当事者間の関係調整によりその法的紛争化を未然に予防するための「事前的紛争予防法」を具体化するべく、そのための医事法上の理論として「子どもの保証人」理論を定立することを試みた。すなわち、「親責任の共同化(分担化)」理論(吉田恒雄「子どもの権利保障と親権」朝倉恵一=峰島厚編『子どもの生活と福祉』(ミネルヴァ書房、1996)174頁)などに示唆を得つつこれを発展させ、「子どもの最善の利益」の実効性ある担保のための「担保責任の多元的な共同化・分担化」を進めることを通して、患者としての子どもを取り巻く多様な専門職・専門組織を「子どもの保証人」に任じて活用するための医事法上の理論枠組を構築することを試みた。
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