研究課題/領域番号 |
25380148
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
樋渡 展洋 東京大学, 社会科学研究所, 教授 (10228851)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 国際経済危機 / 財政改革 / 構造改革 / 経済格差 / 政党競争 / 政策位置 / 民主統治 / OECD諸国 |
研究概要 |
1. 本研究全体の中核部分となる先進諸国の政党、政府、議会の政策選好の変動要因の分析のため、必要な先行研究の検討を終え、さらに独自の実証分析のためのデーターセット作成をほぼ終了した。最新の世界的な研究がどこまでこの問題に接近しており、どのような点で本研究が独自の理論的・実証的貢献ができるのか、そのためにはどのような分析が必要なのかが明らかになった。 2. 本研究の中心的な仮説である、国際的経済危機、特に不況時の通貨・金融市場の激動が、各国の政府や議会の政策選好をどのように変動させ、その結果どのように構造改革(規制改革および労働市場改革)や財政改革(財政収支の改善と財政支出の抑制)に帰結するのかに関しての計量的分析をほぼ終了した。この部分の予備的計量分析は本研究応募時に終了していたが、更に、仮説との整合性や各政策領域での独立変数の統一性などを踏まえ、回帰モデルの改善を行って、確定的といえる結果を得るところまで到達した。 3. 平行して、次の段階の準備として、構造改革や財政政策の規定要因として現在の比較政治経済分析の研究サーベイを行い、比較分析に関しては、これまでの成果の検討を終了した。また、計量分析を肉付けする事例の選択もほぼ終了した。但し、各国の事例の執筆にまでは至っていない。 4. 上記1. に関しては、先進諸国の主要政党、政府、議会の政策選好が景気循環とともに変動し、しかも長期的趨勢としては市場指向的であることが確認できている。このような変動要因の説明変数として、資本移動に伴う経済政策への制約と市場指向的政策の結果としての格差増大を想定している。この問題は、国際化した市場の民主的統治の可能性をめぐるより大きな、現代の政治経済の根源的な問題ーー市場促進的政策や経済格差拡大と民主的統治は両立するのかーーを問うものであることを、先行研究の検討を通して自覚するにいたった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. <研究実績の概要>の1. に関連して、経済国際化と政党、議会、政府の政策選好の変動との関係、および経済格差とこれらの主体の政策選好の変動との関係についての実証分析は、ここ数年アメリカの学術雑誌を中心に議論されてきているが、まだ本格的検証に至ってない。まして、この両者の作用の結果として選好の景気循環的変動を説明している議論はなく、本研究は独自の仮説が検証可能なデーターセットを作成した。 2. <研究実績の概要>の2. に関連して、財政改革と規制改革の関しては国際的金融変動と議会選好の2つの要因がそれらの進展を説明できることを検証した。労働市場改革に関しては、政党や議会の選好よりも、先行する財政改革や規制改革の影響が大きく、政治的要因の影響が弱いことを検証した。 3. <研究実績の概要>の3. に関連して、政治経済の先行研究が経済危機と財政改革、構造改革の実証分析に特化し、政治的媒介変数を扱っていないことが明確となり、本研究の意義を確認できた。即ち、経済危機の発生が有権者の政府評価や政策選好にどのような影響を与えるのか。有権者や政治家の政策選好の変動がどのように政策に反映されるのかの視点 は最新の研究でも欠落しており、そこに本研究の独自性であることを確認した。 4.<研究実績の概要>の3. に関して、経済危機や経済変動が政府や政党、政治家の政策選好を市場指向的改革に、即ち「右」に移動させるとしても、そのような改革の実施が、景気の回復とともに経済格差を悪化させ、その問題が新たな政策課題になるのではないかという仮説に、先行研究と記述統計の検討の結果、到着した。このことを上記2. と照らし合わせて考えると、本実証研究の政策的含意としては、民主政府は経済の国際化への対応とその負の帰結への対応を有権者への応答性・代表性を損なうことなく達成できるという点にあるという暫定的見解に到達した。
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今後の研究の推進方策 |
本年は次の3点の推進を目指す。 1. 上記<研究実績の概要>の1. に関連して、経済国際化、特に国際資本移動の増大およびおよび経済格差の増大が議会、政府、および主要政党の選好をどのように規定していかの検証を昨年度でほぼ構築を終えたデータセットの分析を通して終了させること。その際、異なる選挙制度や議会構成がこのような変動に影響を与えるのか、議会を構成する左右の主要政党がどのような変動にどのような影響を与えるのかに特に注目して検証をする。 2. <研究実績の概要>の2. と3. に関して計量分析はほぼ終了しているので、その結果をより説得的にする事例の記述を進展させる。具体的には、日本の他に、アメリカ、イギリス、アイルランドを中心にデンマーク、ドイツとイタリアの事例を併せて検討する。これらの事例は独立変数の類似性から選択した。 3. <研究実績の概要>の3. に関連して、昨年度までの研究での欠落点と思しき国政経済危機への対応としての税負担の変化とそれに伴う歳出の抑制により発生した経済格差の拡大を各国の議会が、従って各国の有権者が許容しているといえるかと言う点についてより明確な見解を、本研究の含意として導出するよう努める。これが本研究の結論となろう。近年の先進諸国の経済格差の増大の理由として、近年のアメリカ政治学会では2つの見解が対立している。一つは、格差拡大を現代民主政の代表機能不全にもとめる議論であり、もう一つは、格差拡大は現代の有権者の選好の結果として許容されているとする議論である。本研究は、現在のところ、資本課税から労働課税への変化および歳出抑制が議会の中位選好を反映しているとする点で、後者の主張に好意的なものになっている。しかし、本研究の含意が本当に経済格差拡大に関する民主政機能不全説ではなく民主許容説に与するものかは慎重に検討されねばならず、その作業を本年度に着手する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初は次年度に予定していた海外学会での発表を本年度に実施したこと、およびデータセット作成のための研究補助者への謝礼が予想以上であったためこのような結果が生じた。 データセットの作成が一段落したため、今後、この経費出費が減ると予想できる。
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