本研究はアジア女性基金とドイツの「記憶・責任・未来」財団による道義的償いの異なる結果を分析した。東欧の強制労働者への償いである後者は前者と違い、政府、企業、被害国側から資金、運営面で全面的協力を得た。 構造的要因としてドイツの戦後責任へのより高い国民的統一性も考えうるが、それは独政府、企業の政治的経済的利益に資した諸補償政策に追随し、修正主義論争にも揺れてきた。一方基金の元慰安婦への償いは前例がなく、実際的利益に乏しく、さらに慰安婦問題の家父長的性質が加害者被害者双方にもたらす不名誉が基金への反発を強めた。道義的償いの成否は、戦後責任の国民的統一性、補償対象の性質と政治的経済的考慮に影響される。
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