本研究の目的は、カントの判断力理論について教育学的な再検討を行い、実践的(道徳的)判断における認識や経験の重要性を明らかにすることである。 その成果は、以下の3点にまとめられる。(1)カントの実践哲学において、実践的(道徳的)判断が成立するためには何らかの道徳的な認識や知識が必然的な前提条件となる。(2)この道徳的な認識ないし知識は「実例」を通して獲得されるが、そのプロセスの解明を通して、カントの教育思想は再解釈されることになる。(3)道徳教育における実例の意義を考察することによって、道徳教育の可能性と限界が明らかにされる。
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