研究課題/領域番号 |
25381314
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
鈴木 保巳 長崎大学, 教育学部, 教授 (90315565)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 重症心身障害児 / 脳機能計測 / 実態把握 / 発達段階 |
研究概要 |
1.脳電気現象計測を研究方略として用いている研究者と連携して、重症心身障害児の療育現場における脳機能評価に適した計測法を検討した。子どもにあまり負荷をかけずに短時間で脳波記録を実施することを志向した。平成25年度は、開眼・閉眼状態での安静覚醒時脳波を各1~2分記録した後、玩具呈示課題時の脳波を15~20分以内で記録する手続きとした。玩具呈示課題では子どもの好きな玩具と嫌いな玩具を用い、好きな玩具の呈示では、期待反応の形成状態の把握のため、「いくよ」という声かけの2秒後に玩具呈示を行う予告刺激有り条件と予告刺激無しで玩具呈示を行う条件を設定した。期待反応の形成状態の把握は、コミュニケーションにおける能動性の発達段階の検討に有効とされる。1人の子どもの脳波記録に要する時間は、記録電極の装着から記録、後片づけまで含めて概ね40分以内とした。 2.重症心身障害児の実態把握に際して、脳機能計測を実施した子どもの発達検査(遠城寺式乳幼児分析的発達検査とムーブメント教育プログラムアセスメント-II(MEPA-II)またはムーブメント教育・療法プログラムアセスメント(MEPA-R))のプロフィールを対象児の在籍する特別支援学校より提供いただき、脳機能計測結果と行動的測度で把握される子どもの発達水準との関連性についての検討を開始した。 3.特別支援学校(肢体不自由)の小学部に在籍する6名の重症心身障害児の脳機能計測を実施した。このうち、5名は平成24年度に引き続いての計測であった。脳機能計測により、(1)表出行動のみでは把握しにくい刺激呈示や働きかけによる応答性について詳細に検討することができること、(2)行動的評価による発達検査では経年的変化を明確に把握しにくい事例でも脳機能の変化としてとらえることができること、(3)コミュニケーションにおける能動性の発達段階を把握できること、等が検証できた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
連携研究者の協力の下、まず、重症心身障害児の脳機能計測に適した脳波記録手続きを検討した後、特別支援学校(肢体不自由)に在籍する重症心身障害児の脳波記録を実際の指導・支援の現場である学校で実施することができた。さらに、特別支援学校より対象児の発達検査のプロフィールを提供いただくことで、発達検査と脳機能計測結果を統合した多面的指標による実態把握の有効性について検討を開始できた。これにより、平成25年度の研究の目的と実施計画は大方達成できたと考える。 なお脳機能計測に際し、意図性評価に関して子どもの嗜好性を検討すべく、好きな玩具と嫌いな玩具を用いた刺激呈示課題の条件設定を行ったが、嫌いな玩具呈示時は安定した脳波の記録ができず、好きな玩具呈示時の脳機能との比較・検討には至らなかった。しかし、これは平成25年度の研究の実施経過の中で明確化した課題であり、次年度以降の研究実施の際に有用な留意点となる。
|
今後の研究の推進方策 |
平成25年度の研究過程で明確化した課題を基に、学校現場における脳波記録の安定性が向上する計測手続き(記録環境、対象児の姿勢、刺激の種類、刺激呈示回数、等)をあらためて検討し改善する。これにより、重症心身障害児の脳機能計測の効率化に寄与し、教育等の療育現場において支援・指導の手がかりとなる実態把握情報の提供を促進できるものと期待される。同時に、脳波記録手続きの効率化や簡略化は、より多くの事例における横断的計測を加速する。 可能な限り同一事例において脳機能と発達段階を経年的に計測し、発達及び指導に伴う脳機能の変容過程を追跡する。平成25年度には前年度に引き続き、対象児が在籍する特別支援学校より発達検査のプロフィールを提供いただけた。今後も脳機能と発達段階に関連する評価を蓄積して検討することで、意図表出が可能となる発達水準や、意図表出力の向上とともに発達が促される機能領域等の追究が可能となる。さらに平成26年度以降は、個人情報の取り扱いに留意しつつ可能なかたちで、当該児童の指導・支援に関する情報の蓄積を予定している。これにより、意図表出を促す指導・支援のあり方についての考究を開始することができる。
|