研究課題/領域番号 |
25400073
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
池田 薫 慶應義塾大学, 経済学部, 教授 (40232178)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | シンプレクティック幾何学 / 可積分系 / 幾何学的量子化 / ゲージ理論 / ユニタリー表現論 |
研究概要 |
G=GL_n(R)としPをその特殊な放物型部分群とする. 旗多様体G/Pを考える. その際G/Pは主R束の構造を持つ. 但しRはn次元Heisenberg群の中心である. その底空間を射影旗多様体と呼びP(G/P)と書く. Rの1次元表現を用いてP(G/P)上に複素直線束Lを定義することができる. その接続が平坦なときG/P内に極大積分曲面による葉層構造が定義されるがこの葉層構造の曲面1つに対しLの接続が1つ定まる. P(G/P)のシンプレクティック構造がこの接続から定まる. さて戸田格子とはG/P上定義される可換なハミルトニアン流である. G/P上にn-2次元の戸田フローを考えるこのフローの時間発展はn-2個のパラメーターで表せる. 一方戸田フローの初期値条件もn-2個のパラメーターで表せる. 私は前者を角変数, 後者を作用変数と呼んだ. 戸田フローで定義される2n-4次元の曲面を等エネルギー面と呼んだ. この等エネルギー面はG/Pの部分束と見なせる. 等エネルギー面は戸田フローで不変であるから戸田フローのG/Pへの射影による引き戻しが定義できる. この引き戻しは接続を伴うP(G/P)上の複素直線束の写像を定義する. よってこの束写像のP(G/P)への射影はP(G/P)からP(G/P)へのシンプレクティック同相写像をもたらすことが分かる. G/PはP(G/P)の主R束と見たときP(G/P)への作用とコンパティブルな形でPのP(G/P)への作用が定義できる. (i)等エネルギー面で定義される接続を保存する (ii)P(G/P)への作用が強シンプレクティックになっている. この2つの条件を満たさないといけないのでPに制限を加えなくてはならないがこれにはSL_n(R)が含まれる. 戸田フローをintertwinerに持ち上げる一般論を用いSL_n(R)のユニタリー表現をRでパラメトライズした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
幾何学的量子化の前半部分である前量子化に関する研究が進んだ. 曖昧な概念, 厳密性に欠けていた定義等がはっきりと形を持ってきた状態だ. 例えば本研究を展開する上で基盤となる射影旗多様体の概念である. GをLie群としてPをその放物型部分群とする. そして旗多様体G/Pを考える. G/Pは局所的には2n-3次元(G=GL_n(R)として)のHeisenberg群と同相である. Bruhat分解により生じるこのHeisenberg群に同相なaffine空間を貼り合わせることによりG/Pを再構成する. 貼り合わせるaffine空間の1つをUとしよう. Heisenberg群の1次元の中心をRとする. いまRの左からの作用に関する等質空間R|UをKと置く. Kは2n-4次元のaffine空間と同相になる. 今度はこのaffine空間Kたちを貼り合わせて多様体を構成する. それが射影旗多様体P(G/P)である. 一見このような面倒な定義などせず商空間R|G/Pを考えれば良いように思われるがこの定義ではハウスドルフ性が保証されない. P(G/P)は局所的にはK=R|UなのでRの1次元表現を用いてK上の複素直線束が定義される. この局所的な直線束を貼り合わせP(G/P)上の直線束Lを定義した. Lには自然に平坦接続αが定義出来る. するとフロベニウスの定理により極大積分曲面による葉層構造がG/Pに入るこの中の1つの葉をΣとしよう. このΣに対し平坦ではない接続α(Σ)が定まる. その曲率としてP(G/P)にシンプレクティック構造が定義される. こうしてP(G/P)に入るシンプレクティック構造の族が定義される. また可積分系である戸田格子のG/P上のハミルトニアンフロー はΣを不変にしそのP(G/P)上への射影はシンプレクティック同相写像となる. こうした概念および論理構成はこの1年間でかなり明確化された.
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今後の研究の推進方策 |
本研究は実簡約Lie群のユニタリー表現の分類を目指している. ユニタリー表現は量子力学と深い繋がりを持つためこの理論の成功は数理物理への多くの応用を生むものと考えられる. 一つのユニタリー表現の族が何かしらの粒子を表すものとするとユニタリー表現の分類は何種類の粒子の存在が許されるかという問への理論的な枠組みを与えるであろう. 更に分類に現れるパラメーターに物理的な意味が与えられたならその分布を考察することにより素粒子の質量ギャップ問題への応用も考えられる. ではこうした応用へ至るまでにいかなる問題を解かねばならないかを述べたい. 現在までに得られた結果は射影旗多様体P(G/P)を構成し, 戸田格子の等エネルギー曲面によりそのシンプレクティック構造が得られ旗多様体上の戸田格子のフローから定まるP(G/P)上の写像がシンプレクティック写像になるということである. いわば古典論の上での結果であるが, この理論の量子化を考えたい. 量子化する際従うべき指導原理としてKostantがもたらした幾何学的量子化という考え方がある. 大まかに述べればシンプレくティック多様体の諸構造をその上の複素直線束にすべて持ち上げシンプレクティック写像をその上の接続保存写像の束写像の射影として考える方法である. 多様体上の関数とその上のハミルトニアンベクトル場は1対1に対応する. このハミルトニアンベクトル場は接続保存の直線束上のベクトル場に持ち上げ可能である. "多様体上の関数を通して群の直線束上の作用を定義する" これが前量子化である.量子化を完遂するためには偏極といい多様体をp方向とq方向に分ける作業をしなくてはならない. この問題を考えて行きたい. また今回はG=GL_n(R)の特殊な場合であったがこれを任意の実簡約リー群のケースに拡張したい.
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次年度の研究費の使用計画 |
昨年度は6月にフランスでの研究集会へ参加しその旅費が当初予期した以上に嵩んだため他の物品を購入するための予算が足りなくなった. 結果的にそれらを買い控えたため, かえって支出額が配分額を下回ってしまった. 今年度分と合わせると当初予定より3万円ほど余裕が生じるので研究遂行に必要な機材等を性能を重視して購入していきたい.
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