研究実績の概要 |
これまで対称統計量の漸近理論は主に独立同分布確率変数列に対して研究が行われてきた。しかし数理ファイナンスにおける金融データ解析のように確率微分方程式や線形時系列モデルによってモデリングされる場合にはデータの従属性を仮定する必要があるが、本研究によって対称統計量の漸近理論を従属確率変数列の場合に拡張することある程度できた。また退化型対称統計量のエッジワース展開についてV.Bentkus, F.Gotze, Ann. Prob.(1999)の結果を拡張し、2次項の誤差オーダーまで広義の中心極限定理の精密化が行えることを示した。さらに本研究において、任意の誤差オーダー に対する補正項を求めることができた。
代表的な退化型対称統計量であるCramer-Von Mises統計量については上記のように任意の誤差オーダーに対する補正項を既に求めることが出来た。この結果について現在論文を準備中である。しかし、より一般的な退化型対称統計量に対しては、従来から研究されてきたヒルベルト空間値確率変数列の和に関するエッジワース展開のいくつかの結果を修正する必要があり、現在の研究主題として取り組み、僅かではあるがある程度の進展が見られた。
漸近理論を従属確率変数列に拡張するためにこれまで多くの手法が提案されてきた。国内連携研究者の吉原健一氏は1976年に混合性を持つ従属確率変数列に対するU-統計量の漸近正規性を初めて示した。この時従属確率変数列を独立確率変数列で近似しその誤差項を評価する方法が使われたが、本研究でも吉原健一氏との研究によって、対称統計量に関する漸近理論を従属確率変数列の場合に拡張することが出来た。また退化型だけでなく非退化型対称統計量についても従属確率変数列の場合への拡張を行った。
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