申請者らは、双連結キュービック液晶(Cub_bi)相を形成する化合物にアゾ化合物を添加した二成分系において、紫外光照射により1次元秩序相であるスメクチックC(SmC)相から3次元のネットワーク構造を有するCub_bi相への相転移を誘起することにはじめて成功した。本研究は以下の2つを主目的に遂行した:(1)この光誘起->Cub_bi相への相転移をナノレベルならびに分子レベルから調査し、その物理化学を解明する。また、その知見を生かし、(2)ナノ構造の次元性を光で自在に制御する新しい材料学の創製をおこなう。これまでの成果の概要は以下の通りである。①は(1)の、②は(2)の成果である。 ① ベンゼンカルボン酸系キュービック液晶性化合物とアゾ化合物の二成分系試料において、斜入射小角X線散乱(GI-SAXS)、UV-Vis測定、IR測定等により相転移を追跡した。添加成分のアゾ化合物のトランス-シス光異性化がSmC相の高温側のCub_bi相の三次元ネットワーク構造を直接誘起・安定化しているわけではなく、競合して形成するSmC相の層状構造を不安定化する結果として、相転移が駆動されることを明らかにした。またアゾ化合物の添加量と光誘起温度を条件パラメータにGI-SAXS時間分解測定から光応答性ならびに相転移の進行過程の定量的な知見を明らかにした。 ② ベンゼンカルボン酸系キュービック液晶性化合物のニトロ基をシアノ基に置換した系とアゾ化合物の二成分系、さらにはフェニルヒドラジン系の単一化合物及び二成分系においても、光誘起相転移の発現に成功し、Cub_bi相の光誘起手法の汎用性を示した。特に、フェニルヒドラジン系の単一化合物においては、SmC相からこれまでのIa3d対称性ではなくIm3m対称性のCub_bi相への相転移が誘起できることを、一方、フェニルヒドラジン系の二成分系においては、SmC相の低温側に存在するCub_bi相の紫外光照射による誘起に成功した。
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