研究課題/領域番号 |
25430062
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
橋本 美穂 (サトウ ミホ) 群馬大学, 保健学研究科, 研究員 (90381087)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | タンパク質チロシンリン酸化 / 低温シグナル / 低体温 / 脳、神経 |
研究概要 |
本年度は、より生理的な状態での低体温モデルを導入するために、グラム陰性菌の内毒素であるリポポリサッカライド(LPS)投与により誘導される炎症性低体温を用いた解析を進めたが、その過程で予想外に、SIRPα KOマウスが、LPSによる炎症性低体温を起こしやすい表現型を示すことを発見した。また末梢免疫系を主なターゲットとしたSIRPαコンディショナルKO(cKO)マウスを用いた解析からは、中枢でのSIRPα欠損がこの表現型の原因となる可能性を示す結果を得た。これらの結果はSIRPαシグナルが、低温応答性に機能するだけでなく、中枢性に低体温を誘導・調節するプロセスにも関与している可能性を示している。そこで、脳内におけるSIRPαの発現をフローサイトメトリーや免疫組織染色などの手法を組み合わせて詳細に解析したところ、神経細胞に加えて脳内免疫細胞であるミクログリアにSIRPαの発現を確認する共に、SIRPα KOマウス脳内において、ミクログリアの活性化状態が変化していることを示す結果が得られた。一方、これまでの解析結果から、SIRPα KOマウスの神経細胞については明らかな形態的、機能的異常は報告されていない。これらの結果に基づき、現在、ミクログリアのSIRPα を介した中枢性の細胞間相互作用シグナルが、低体温誘導あるいは低温応答性を調節しているというモデルを新たに想定している。従って今後は、低温応答性に活性化する中枢性SIRPαシグナルの機能について、低体温誘導メカニズムとしての役割を中心に検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の計画の一つとして、タンパク質翻訳後修飾を手がかりにプロテオーム解析を行い、低体温により状態が変化する生体分子を解析する予定であったが、SIRPα KOマウスの表現系の解析に多くの時間を割いたため、現在までにSIRPα チロシンリン酸化に続く、新規の低体温応答分子の同定には至っていない。その点で、計画の達成度は十分とは言えないが、一方で、低代謝によって誘導された低体温のマウスの脳を使ったマイクロアレイ解析については予定通り進めることができ、代謝や免疫制御に関与する遺伝子やシャペロンの遺伝子群の発現が主に変化していることが明らかとなった。また、SIRPα KOマウスがLPS投与による低体温誘導に対して感受性が高いという新しい発見があり、アレイの解析結果から考えても、低体温の発現と低体温に対する生体の反応には脳内免疫系による制御が強く関与しているという可能性を見出すことができた。一方、SIRPαの生理機能として記憶や神経保護に関与している可能性を想定し、SIRPα KOマウスを使った記憶学習や脳虚血モデルによる実験を計画していたが、ミクログリアに発現するSIRPαの機能の重要性を考慮し、ミクログリア特異的に、あるいは神経細胞特異的にSIRPαを欠損させたcKOマウスの作成を優先させ、現在準備を進めている。このように、SIRPα KOマウスの低体温誘導や低温応答に関して、予想外の結果が得られたため、計画の一部を修正したが、新たな発見や一部変更した研究から得た成果は、脳の低温応答におけるSIRPαの機能解析を進める上で重要な結果であると考えられるため、本研究はおおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策として、新たに見出したSIRPαシグナルを介した炎症性低体温の中枢性制御機構について、重点的に研究を進めることを予定している。その際、ミクログリアあるいは神経細胞特異的なSIRPα cKOマウスを用いた解析を行う。SIRPα欠損により低体温に高感受性になった原因を明らかにするために、ミクログリア特異的SIRPα cKOを用いて、LPS投与後の体温変化のモニタリングとともに、LPS刺激によりミクログリアで産生されるサイトカイン等を測定し、野生型マウスと比較する。それと同時に、LPS投与によるミクログリアの反応を受け、その後神経細胞で活性化されるシグナルを解析し、SIRPαにより制御されるLPS誘導低体温の分子メカニズムを明らかにする。また、上記の解析で用いるcKOマウスは、当初予定していたSIRPαシグナルと記憶学習あるいは神経保護作用との関連性を解析する実験にも用いる。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、SIRPαシグナルが低体温誘導に関与する可能性について新しい発見があった。そこで当初の研究計画について修正を行い、さらに次年度以降の新しい展開へ向けて、予備的検討を行う必要があった。そのため、当該年度の研究費についても変更の必要性が生じ、次年度以降に繰り越して使用する研究費が生じた。 平成25年度の繰り越した研究費は、平成26年度以降請求する研究費と合わせて、SIRPα分子が関与する低体温誘導メカニズムと神経低温応答シグナル機構を解析するための消耗品費(試薬、器具、動物購入費および動物管理維持費)や旅費等に使用する予定である。
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