研究課題
胎児は母体を離れ外界に出たとき、オギャーと泣き、呼吸を始める。出生直後、呼吸をすぐに開始できるよう、胎児は正しい呼吸リズムを周到に準備している。胎児期において、呼吸リズム形成の鍵となる分子が、抑制性神経伝達物質であるγ-アミノ酪酸(GABA)である。なぜならば、GABAの合成酵素であるグルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)、GABAをシナプス小胞に充填する小胞型GABAトランスポーター(VGAT)のいずれの欠損マウスも生直後に呼吸不全で死亡するからである。さらに、GABAの抑制性応答に必要なKCC2の欠損マウスも呼吸不全で生直後に死亡する。そこで、胎児期の延髄における抑制性GABAシナプスの構築と呼吸リズム形成との関連を解明することを本研究の目的とした。呼吸様リズム性の自発発火数が、胎生16日から増加し、生後0日からはほとんど変わらないことを昨年度報告した。VGATは、GABAを放出する神経終末のマーカーとして知られるが、舌下神経核におけるVGATの発現が、呼吸様リズム性の自発発火数と同じく、生後0日まで増加するが、その後変わらないことがわかった。さらに、GADも同様の発現パターンを示した。GAD及びVGATの発現と呼吸リズム発火数の増加のパターンが一致することがわかった。胎生18.5日のVGATの遺伝子欠損マウスの舌下神経核より呼吸様リズム性の自発発火を記録したところ、野生型と比較してほとんど呼吸様リズム性の自発発火が見られないことがわかった。これらの結果から、呼吸リズムの発生にはGABAの入力が必須であり、その入力は出産時には完成している必要があることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
計画していたGABA伝達関連分子についての免疫組織化学法はほとんど終了した。さらに、胎児期から幼若期における呼吸リズム発火についての薬理学的実験もほぼ終了した。すでに最終年度に計画している遺伝子欠損マウスを用いた研究に着手している。これまでの結果の一部がBrain Research誌に掲載され、日本神経化学会、日本生理学会・解剖学会合同学会などでも発表を行ったことからおおむね順調に進展していると考えた。
今後、GABA関連分子の遺伝子欠損マウスを用いた研究を進める予定となっている。特に遺伝子欠損マウスを用いた研究のうち、呼吸リズムの回復をめざした薬理学的実験などに対しさらに研究を推進するため、琉球大学・分子解剖学講座の岡部明仁准教授を分担者として追加する予定である(現在申請中)。上記に述べた遺伝子欠損マウスを用いた呼吸リズム様自発発火の細胞外記録の実験とともに、舌下神経核のグラミシジン穿孔パッチクランプ法により細胞内Cl-濃度測定を推進する計画である。また、来年度が最終年度にあたるため、これまでの結果を総括した論文を投稿、発表していく予定である。
今年度はGABA関連分子の免疫組織化学法や急性スライスを用いた呼吸リズム様自発発火の細胞外記録などを行ってきた。これまでの結果から、細胞内Cl-濃度の測定の必要性から、グラミシジン穿孔パッチクランプ法の導入を行った。グラミシジン穿孔パッチクランプ法では、長時間にわたり、神経細胞に対しガラス電極を保持する。さらなる作業効率及び精度をあげるため、新規にマニピュレーターを購入する必要がある。
上記理由により、平成27年度の予算と合算し、新規にマニピュレーターを購入し、グラミシジン穿孔パッチクランプ法による細胞内Cl-濃度の測定を推進する計画である。
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