研究課題
胎児は出産により外界に出たとき、オギャーと産声をあげ、呼吸を始める。出生直後、呼吸を直ちに開始できるよう、正しい呼吸リズムを胎児期に周到に準備している。抑制性神経伝達物質GABAの合成酵素であるグルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)、GABAをシナプス小胞に充填する小胞型GABAトランスポーター(VGAT)のいずれの欠損マウスも生直後に呼吸不全で死亡することから、GABAは胎児期における呼吸リズム形成に重要な役割を果たしていると考えられる。GABAは発達期には興奮性に働くことや抑制性の応答には細胞外にCl-を排出するK+-Cl-共輸送体(KCC2)の発現が必要であることが報告されている。KCC2欠損マウスも生直後に呼吸不全で死亡する。これらのことから、GABAの開口放出と抑制性の両方が、胎児期の呼吸リズム形成に関与していると考えられた。そこで、胎児期の延髄における抑制性GABAシナプスの構築と呼吸リズム形成との関連を解明することを本研究の目的とした。昨年度は、胎生18日齢のVGAT遺伝子欠損マウスの舌下神経核を含む脳スライスから得られた呼吸様リズム性自発発火が、野生型と比較してほとんど見られないことを報告した。同様の方法によりKCC2遺伝子欠損マウス得られた呼吸様リズム性自発発火は、発火数自体には有意差はなかったが、小さな振幅の発火が混在し、規則正しいリズムを刻んでいなかった。これは、KCC2が欠損することにより、細胞内Cl-濃度が高くなるため、本来抑制性に働くべきGABAが興奮性に働くことで異常発火を誘導したと示唆された。これらの結果から、呼吸リズムの発生にはGABAの放出が必須であるが、呼吸リズムの形成にはGABAの抑制性応答が重要であることが明らかとなった。
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Br.J.Pharmacol.
巻: 172 ページ: 4519-4534
10.1111/bph.13236