研究課題
がんは日本国民の最大の死亡原因であり,近い将来国民の半数ががんにより死亡すると予測される.「がん克服」を目標に多くの基礎・臨床研究が行われているが,治療抵抗性・転移・再発などを示す難治がんに対する治療法は未だ確立されていないのが現状である.p53はヒト悪性腫瘍の約50%と最も高頻度に変異や欠失が見出されるが,“がん抑制遺伝子”であるためp53経路をターゲットとした治療薬の開発は遅れている. 正常型p53により転写抑制され,変異型p53をもつ腫瘍細胞で発現が上昇する標的遺伝子を同定し,がん治療の有力な分子標的につながる研究の展開をめざす.miRNA発現解析により正常型p53がmiR-200ファミリーを発現誘導することを見出した.さらにmiR-200b/200c/429が発現制御する遺伝子としてCRKLがん遺伝子を同定した.すなわち,p53はmiR-200ファミリーを介してがん遺伝子CRKLの発現を抑制する.CRKLタンパクはSH2およびSH3ドメインをもつアダプタータンパクであり細胞内の様々なシグナル伝達経路を活性すると考えられており,CRKL強制発現は腫瘍細胞の増殖・浸潤能を促進した.臨床症例のデータ解析から非がん部と比較してがん組織でCRKLの発現が高く,また,乳がん症例におけるCRKLの発現レベルはp53ステイタスと相関していた.p53が細胞周期停止・アポトーシス誘導に関与する標的遺伝子を転写活性化するのみならず,miRNA転写制御を介して腫瘍細胞の増殖・浸潤に関与するがん遺伝子の発現を抑制することを実証した
2: おおむね順調に進展している
本年度は,p53がmiR-200ファミリーの転写活性化を介してがん遺伝子CRKLの発現を抑制すること,および,がん遺伝子CRKLが腫瘍細胞の運動・浸潤能を調節する役割をすることを確認した.さらに,臨床検体において種々の悪性腫瘍でCRKLの低発現がp53変異を相関することも見出している.したがって,p53経路に異常のあるがんに対してがん遺伝子CRKLを分子標的とした治療薬が有効なことを示唆する研究成果を得ることができた.現在までの進捗状況は,おおむね順調に進展していると考えている.
本年度の研究成果を発表する目的で2016年4月に開催される米国癌学会に参加するため,補助事業期間を延長した.また本研究の信頼性・再現性を高める再現実験を実施する計画である.
塩基配列解析の目的で利用する従来のDNAシーケンサー(配列決定装置)や網羅的な遺伝子発現解析には高価な蛍光色素付加基質が必要であった.しかしながら,札幌医大共同施設に導入された半導体シーケンサーをして塩基配列決定やRNA-seqに解析手法を変更することが可能になった.高価な蛍光色素基質が必要でないため,購入を計画していた試薬代が予想以上に節約でき,971,736円残額が生じた.
研究成果を発表する目的で2016年4月に開催される米国癌学会に参加する.また,本研究の信頼性・再現性を高める再現実験の実施のために補助事業を延長する計画である.
すべて 2016 2015 その他
すべて 雑誌論文 (8件) (うち査読あり 8件、 オープンアクセス 6件、 謝辞記載あり 3件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
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