研究実績の概要 |
認知症では中核症状の認知障害に加えて、周辺症状の行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia, BPSD)が多くの患者に認められている。BPSDの陽性症状では徘徊や攻撃性などが出現し、患者QOLの低下だけではなく患者家族の負担にもなる。Donepezil(DNP)はBPSDを改善するとの報告がある一方で、BPSDを惹起するとの報告もあり一致した見解が得られていない。そこでDNP及びその活性代謝物である6-O-desmethyldonepezil(6-ODD)の血漿中濃度とBPSDの発現状況との関連性を検討した。 認知症の治療のためDNPを服用している患者を対象とした。血漿中DNP及び代謝物の6-ODDは固相抽出処理後LC-MS/MSシステムを用いて測定した。これまでに開発した測定法は、0.1から100 ng/mLで良好な直線性が得られおり、DNPおよび6-ODDの高感度同時血漿中濃度測定が可能である。BPSDの評価はNeuropsychiatric Inventory(NPI)スコアを用いた。本研究は国立病院機構静岡てんかん・神経医療センターの倫理委員会の承認を得て実施した。 DNPの血漿中濃度は個体間変動が大きく、治療域とされる30~75 ng/mLにDNP濃度が分布する患者は全患者の48.6%であった。6-ODDの血漿中濃度にも大きな個体間変動がみられた。また、6-ODD血漿中濃度の平均はDNP血漿中濃度の平均の約130分の1であった。血漿中DNP濃度及び6-ODD濃度とNPIスコアに相関はみられなかったが、血漿中DNP濃度が75 ng/mL以上の患者では、それ未満の患者に比べNPIスコアが低い傾向を示した。
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