研究課題/領域番号 |
25460831
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人国立環境研究所 |
研究代表者 |
鈴木 武博 独立行政法人国立環境研究所, 環境健康研究センター, 主任研究員 (60425494)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ヒ素 / エピジェネティクス / Fosb |
研究概要 |
胎児期や乳幼児期のヒ素曝露により成人後に肝臓癌などが発症する割合が増加することが疫学的に明らかになっている。我々は、胎児期無機ヒ素曝露によってC3Hマウス74週令の雄の仔の肝臓で腫瘍が増加し、その腫瘍では対照群の肝臓腫瘍と比較して、癌遺伝子Fosbの発現が大きく増加することを見出している。本研究では、メカニズム研究が容易な細胞株(マウスとヒトの肝臓癌細胞株Hepa1c1c7とHepG2)を用い、ヒ素による後発的発癌に関するメカニズムの一端を明らかにすることを目的とする。今年度は、マウスとヒトの肝臓癌細胞株(Hepa1c1c7とHepG2)において、ヒ素によるFosbの発現変化、およびヒ素によるFosbの発現増加に関するエピジェネティック作用について検討した。 Hepa1c1c7とHepG2において、Fosb遺伝子の発現がヒ素で増加することが明らかになった。Hepa1c1c7について、エピジェネティック作用の検討をおこなったところ、転写開始点上流のDNAメチル化状態は、ヒ素曝露で変化しなかったが、ヒアセチル化ヒストンH3及びH3K36トリメチル化(H3K36me3)のレベルがヒ素曝露で増加することがわかった。転写活性化と遺伝子領域内部のH3K36me3レベルが対応することが報告されているため、遺伝子領域内部におけるH3K36me3レベルも検討したところ、H3K36me3レベルはヒ素で増加することがわかった。この条件においてはグローバルなH3K36me3レベルがヒ素で増加しており、各領域でのヒ素によるH3K36me3レベルの増加に関与する可能性が考えられた。以上の結果から、Hepa1c1c7においては、ヒ素によるFosbの発現増加には、転写開始点上流のアセチル化ヒストンH3の増加、および遺伝子領域内部のH3K36me3の増加が関与している可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者らは、これまでに、胎児期無機ヒ素曝露によってC3Hマウス74週令の雄の仔の肝臓で腫瘍が増加し、その腫瘍では対照群の肝臓腫瘍と比較して、癌遺伝子Fosbの発現が大きく増加することを見出している。本研究では、メカニズム研究が容易な細胞株を用い、ヒ素によるエピジェネティック作用に着目したFosb遺伝子発現調節メカニズムを解明することを目的としている。今年度は、ヒ素によるFosbの発現増加が、マウス肝臓癌細胞株Hepa1c1c7、さらに、ヒトの肝臓癌細胞株HepG2で起こることを確認し、Hepa1c1c7においては、ヒ素によるFosbの発現増加に、転写開始点上流のアセチル化ヒストンH3の増加、および遺伝子領域内部のH3K36me3の増加が関与している可能性を明らかにできた。どのような機序でエピジェネティック変化が起こるかは今後検討する予定であるが、ヒ素によるFosb発現増加に関連する可能性のあるエピジェネティック変化を検出できたことから、現在までの進捗状況はおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成27度実施予定の研究計画の予備的な検討により、Hepa1c1c7をDNAメチル化阻害剤である5-aza-dCで処理したところ、Fosbの発現が大きく増加するという結果が得られた。したがって、Fosb遺伝子の発現はDNAメチル化で制御されている可能性が示唆された。Fosb遺伝子領域には、CpG islandとよばれるDNAメチル化によりその遺伝子の発現が制御される可能性のある領域が2か所(転写開始点上流-500~+2000、及び+4600付近)存在する。本年度は、脳においてDNAメチル化とFosb遺伝子発現調節との関連が報告されていたFosb転写開始点上流の200 bp程度のDNAメチル化状態のみを検討し、DNAメチル化の変化ないことがわかったが、その他の領域については検討をおこなっていない。そこで、次年度は、Fosb遺伝子の2か所のCpG islandのDNAメチル化状態について、より詳細に検討することを予定している。 DNAをメチル化する酵素は、DNMT1、DNMT3a、DNMT3bが知られているため、DNAメチル化状態に変化が見られた場合は、平成27年度の計画と平成26年度の計画を部分的に入れ替えて、どのDNMTが関与するかそれぞれのDNMTに対するsiRNAを用いた検討を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度も、本年度同様に、細胞培養やエピジェネティック作用に着目した分子生物学的解析に試薬の消耗をともなう。また、申請者の所属する国内の学会での成果発表、さらに関連分野の情報収集および人脈構築をおこなうため、旅費を使用予定である。 私たちがこれまでに行ってきた先行研究・予備的検討における消耗品リスト並びにカタログ記載の単価をもとに、年間消費量を概算し、細胞培養試薬、siRNAなどの分子生物学的解析用試薬、一般試薬に研究費を使用予定である。また、申請者のこれまでの事例をもとに算出した旅費を使用予定である。
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