胎児期や乳幼児期のヒ素曝露により成人後に肝臓癌などが発症する割合が増加することが疫学的に明らかになっている。我々は、胎児期無機ヒ素曝露によってC3Hマウス74週令の雄の仔の肝臓で腫瘍が増加し、その腫瘍では対照群の肝臓腫瘍と比較して、癌遺伝子Fosbの発現が大きく増加することを見出している。本研究では、メカニズム研究が容易な細胞株を用い、ヒ素による後発的発癌に関するメカニズムの一端を明らかにすることを目的とする。今年度は、HepG2において、ヒ素曝露によるFosb転写開始点近傍と遺伝子領域内部のDNAメチル化状態の変化を調べ、Fosbの発現と比較検討した。 ヒ素曝露していないHepG2のゲノムを用いてFosb領域の2ヶ所のCpG islandのDNAメチル化を調べた結果、Fosb転写開始点近傍は完全に非メチル化状態で、遺伝子領域内部が約17%メチル化されていることが明らかになった。これら領域のメチル化率は、C3Hマウス肝臓におけるFosbメチル化率と類似していることがわかった。HepG2をヒ素で曝露すると、Fosbの発現が大きく増加し、Fosb遺伝子領域内部のDNAメチル化率が増加することが明らかになった。遺伝子領域内部のメチル化と遺伝子発現増加の対応は報告されているものの、その機序については不明であったため、本研究の結果から、HepG2の系は、遺伝子領域内部のメチル化と遺伝子発現との対応を検討するモデルになる可能性が考えられた。
|