研究課題
基盤研究(C)
本研究計画では、次の2つの課題の解明を目的としている。すなわち、(課題1)肥満・糖尿病がDEN誘導性肝がんの発症とマクロファージの極性に与える影響、(課題2)DEN誘導性肝がんに浸潤するTAMの極性決定におけるHIF-1alphaおよびSIRT1の役割、である。平成25年度には、両課題に共通する予備実験としてまず、化学発がん物質であるDENによる肝がんの発症誘導の系をC57BL/6マウスを用いて立ち上げた。DENにより発現誘導される肝腫瘍の頻度とサイズは、既報に一致して食事性肥満によって増悪すること、このような食餌性肥満の影響はメスに比べオスで顕著であることなど、実験継続に必要な基礎データを得た。研究計画書では既報に従い高脂肪食処置を50週齢まで継続し、解析することになっていた。Time courseを確認する実験のなかで、18週齢で小型の腫瘍が認められ、30週齢では群間比較が可能なサイズの腫瘍が発症していることを確認した。そこで、50週齢まで待たず、若い週齢での腫瘍関連マクロファージ(TAM)の評価を開始した。評価法としては、マクロファージの汎マーカーおよびM1/M2マクロファージのマーカーを用いて、免疫染色とreal time RT-PCRを実施した。腫瘍周囲および腫瘍内に浸潤するTAMの分布や数、M1/M2極性に関するpreliminaryなデータを得ている。引き続き50週齢まで飼育中のマウスの解析を予定している。また、課題2で必要なマクロファージ特異的HIF-1alphaのノックアウトマウス交配を開始している。本研究計画に必要な数の仔マウスが得られてはじめており、引き続きDEN投与後の飼育が計画されている。
2: おおむね順調に進展している
本研究計画ではマウスに化学発がん物質であるDENを投与し50週齢まで飼育、その後に多くの解析を行う予定になっている。平成25年度にはDENによる発がんの系の立ち上げに成功し、現在多くのマウスが高脂肪処置の経過観察期間にある。その期間内である平成25年には解析に必要な実験系の準備を行っている。これまでに肝腫瘍の組織染色、マクロファージマーカーを中心とする免疫組織染色、real time RT-PCRなどの系を立ち上げた。腫瘍の発育に伴いTAMの極性はM1からM2に代わることが知られている。CD206がM2極性を持つTAMのマーカーであるとの既報があるが、我々のこれまでの検討ではCD206陽性マクロファージの明らかな増加を確認できていない。これは単に実験の精度の問題なのか、DEN誘導性肝腫瘍ではCD206以外のM2TAMのマーカーが存在するのかなどいくつかの可能性を考えており、平成26年度以降の重要な検討課題である。平成26年度には50週齢までの高脂肪食処置が次々と終了する。これらのマウスの解析が本格的に開始される予定である。また、実験1-2として、骨髄由来マクロファージ(BMDM)と肝がん細胞との共培養の実験が計画されている。その準備としてマクロファージのcell lineであるRAW細胞を用い、Western blotによる炎症シグナルの解析などが始まっている。課題2に関する研究計画書ではいくつかの遺伝子改変マウスにDEN誘導肝がんを発症させ、解析する計画を記載した。平成25年にはその中のひとつであるマクロファージ特異的HIF-1alphaノックアウトマウスの準備を始めた。他のマウスも我々の研究室内で飼育されており、引き続き解析用の仔マウスを得るための交配を計画している。
平成25年度にはDEN誘導性マウスの準備と解析の実験系の立ち上げを行った。解析に関し次に立ち上げを予定しているのはTAMのflowcytometryである。これはTAMの極性を決めるためのものであり、我々がこれまでに脂肪組織マクロファージ(ATM)の極性決定のために行ってきた実験の経験を活かすことができる。免疫染色の結果からは脂肪組織のATMと同程度の数のTAMが肝腫瘍には浸潤していることを確認しており、解析に必要な数のマクロファージの採取は可能であると考えている。実験1-2として記載した、骨髄由来マクロファージ(BMDM)と肝がん細胞との共培養の実験を、BMDMを用いて開始する。BMDMの採取はこれまでに経験があり可能である。野生型マウスおよびマクロファージ特異的HIF-1alphaノックアウトマウスの解析の進み具合を見ながら、研究計画書に記載したその他の遺伝子改変マウスの交配の準備を開始する。
予定どおり使用しているが、残金があった。次年度の消耗品購入に加算して使用する。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 5件)
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