本研究では、難治性血管腫・リンパ管腫に対するプロプラノロール療法を確立することを目的とし、1)プロプラノロール療法の臨床研究、2)プロプラノロールの血管腫・リンパ管腫細胞に対する薬理作用の解析を行った。 1)小児血管腫・リンパ管腫に対するプロプラノロール療法の有効性と安全性に関する臨床研究 57例(乳児血管腫40例、リンパ管腫6例、その他の脈管異常11例)が対象で、6ヶ月をプライマリーエンドポイントとし、有効性と有害事象の評価を行った。有害事象については血圧、脈拍、血糖など統計学的な解析を行った。乳児血管腫に対する治療効果は色、大きさをVisual Analogue Scale (VAS)、客観的指標を用いて評価し、3か月で約50%、6ヶ月で約80%の改善率が得られた。有効性について、治療開始時月齢(6ヶ月未満、6ヶ月以上)、病型(表在型、腫瘤型)、病変部位(頭部と頭部以外)とで分けてtwo-way ANOVAで解析したが、差はみられなかった。その他のリンパ管疾患に関しては、病状によって評価項目が異なるが、それぞれ有効性を認めた。
2)プロプラノロールの血管腫に対する薬理作用の解析 血漿中VEGFの測定を治療前、治療後4,8,12,24週後にELISAで測定し、t-testで解析した。治療前は小児健常者30例と比較して、乳児血管腫患者は有意に高かった。また腫瘤型は表在型と比較して有意に高かったが、開始時年齢、病変部位に違いはみられなかった。治療後4週目ではVEGF値は有意に低下したが、その後は有意な変動は無かった。腫瘍体積は治療後に経時的に縮小するが、VEGFはそれと関係なく、治療後は常に低値であったため、プロプラノロールの薬理作用によって腫瘍からのVEGF産生を抑制している可能性が示唆された。結果は、関連する学会および英文誌に報告した。
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