先端技術を駆使することにより、てんかんの病態を明らかにし,とりわけ難治てんかんの治療法を開発することは、てんかんを含むけいれん性疾患が,全人口の10%にものぼることからも急務である。 本研究計画の目的は神経幹細胞を背側海馬に移植することによって、てんかん発作がコントロールできたてんかんミュータントELマウス脳と移植した細胞をin vitroで培養し続けた細胞分化の差に注目し、てんかん脳の持つ神経可塑性の異常とその正常化過程を明らかにし、新しい治療法を開発することにある。 てんかんの定義は「皮質神経細胞の過剰興奮が同期して起こりこれが,繰り返し反復出現する。」ことである。てんかんが発達過程を経て発作を獲得する過程を「てんかん原性」と言うが,てんかん原性確立の際には様々な遺伝子の発達時期特異的発現が認められている。これがてんかん脳の神経可塑性異常の根拠である。一方、神経幹細胞をてんかん焦点の海馬に移植するとその分化誘導度に関わらず、抑制性神経細胞が誘導され、てんかん発作は消失した。これは神経可塑性の正常化といえる。この現象を解明し、治療に応用すれば、難治てんかん治療の飛躍的進歩が望める。 このような発達特異的現象を解析するには、発達過程で徐々に発作閾値が低下してゆき,てんかん原性を獲得してゆく神経可塑性の異常を有するてんかんミュータントであるELマウスが疾患モデル実験動物として最もふさわしい。 本年度は移植を受けた個体の次世代が遺伝的影響を受けない安全性を検証した。ELマウスは5周齢までは全く発作を起こさない。最初の発作は8-12週齢の間に起こす。そこで神経幹細胞移植群の雄雌を交配させ、そのF1を得これについて、神経変性などの異常がないか、致死性がないか、またnaiiveなELと遺伝子発現の差がないかを検討した。F1-3迄追跡調査したが、遺伝的変異はいっさい認めなかった。
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