研究課題/領域番号 |
25463441
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
上野 恭子 順天堂大学, 医療看護学部, 教授 (50159349)
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研究分担者 |
熊谷 たまき 順天堂大学, 医療看護学部, 准教授 (10195836)
小竹 久実子 順天堂大学, 医療看護学部, 准教授 (90320639)
阿部 美香 順天堂大学, 医療看護学部, 助教 (90708992)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 共感援助 / 訪問看護師 / 緩和ケア / M-GTA |
研究実績の概要 |
平成26年度の研究は、看護師の共感的援助能力を育成するための教育の内容を明らかにする目的で前年度に引き続き、面接調査を行った。対象は、共感援助尺度14項目(ESB14)による調査結果から、共感的援助の度合いが高かった訪問看護師とした。 方法は、M-GTAで行い、熟練した訪問看護師10名を対象とし、家庭訪問の場面で利用者のつらい気持ちなどの心的体験を理解するプロセスを分析した。 その結果得られたストーリーラインでは、看護師は、利用者を患者としてではなく、人として捉え、その人らしい生活を維持できることを目指してかかわろうとした。そのために、家庭内の環境を含めて些細な変化に注意して観察を行いながら利用者の思いを具体的にイメージできるように会話を繰り返した。その時、我に返り、自分自身を客観視できるように心掛けていた。さらにその間、何気ない声かけや相手のムードに合わせたり、意識的に笑顔を見せたりしており、絶対に利用者を否定せず、如何なる時にも孤独にさせない行動や態度があった。 この一連の行為は緩和ケアの看護師を対象とした前年度の調査結果と共通する点;相手との心理的距離の客観的視点をもつこと、相手の問題を解決するというより彼らの人生や生き方を支持するかかわり、自らを黒子のような存在にすること、そして、自らを安定させる仲間が必要であること、が明らかになった。また、熟練した緩和ケア看護師と訪問看護師の両方の調査結果から、看護師が相手に共感することは、そのまま援助行為につながっていると考察されたため、看護師の共感概念を“共感援助”と命名した。 引き続き、若手看護師が共感援助を行えるようにするための教育方略を構築することを目的にM-GTAで面接調査を行った。対象は関東近辺の総合病院4か所に所属している20歳代の看護師21名、30歳から35歳以下の看護師4名であった。分析は現在進行中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、熟練した緩和ケアの看護師対象の先行研究と訪問看護師を対象にした質的研究結果を総合的に検討し、共感援助の概念を明らかにすることができた。さらにESB14 ver.2の改定も実施した。 しかし、20歳代の若手看護師の質的研究は終了しておらず、今年度目標の教育方略案作成までに至っていない。遅延理由として、共感援助には看護師の年齢要因だけでなく、アイデンティティを始めとする精神的成熟の要因が影響していることが明らかとなり、20歳前半の看護師のみを対象とした調査では的確なデータが得られていないと考えられたこと、および、実際に20歳前半の若手看護師への面接だけでは、豊富な意味を持つ内容が得られなかったため、年齢幅を35歳までと拡大し、調査を延長したためである。 また、ESB14 ver.2は、緩和ケア看護と訪問看護の熟練看護師対象の先行研究から明らかになった共感援助の構成概念が網羅されておらず、次年度の教育プログラムの効果検証を行う際、共感援助の程度を測定するには不十分であることが判明した。そこで急遽本調査(介入研究)の前に尺度の改善、あるいは再開発が必要であることも明らかになった。この研究は当初の研究計画時点では想定されておらず、予定外に実施することになった。 以上により、今年度はやや遅れていると判断された。
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今後の研究の推進方策 |
現在、35歳以下の看護師の共感援助に関するデータの分析が進行している。分析後、文献検討と先行研究成果を基に共感援助能力育成のプログラム案を構築する(9月頃まで)。構築までの具体的なプロセスは、① 共感援助が不得手な看護師の緩和ケア対象の患者に対する認知、看護援助に関する価値観や考えの特徴、患者へのかかわりの行動の特徴を明らかにする。② 共感援助の構成概念を熟練看護師対象の質的研究成果と文献検討によりさらに精練し、構成概念を明確化する。③ ①と②の結果を比較、検討し、共感援助能力を伸ばすための教育的介入のプログラム案を作成する。④ 教育プログラム案のプリテストは、3~5名の看護師対象に実施し、内容と方法を検討する(平成28年2~3月頃)。 加えて、先に精練した共感援助概念の構成概念に基づき質問項目を策定し直し、新たに共感援助尺度(仮)を作成し、各種妥当性と信頼性検証のための調査を行う(8月~12月)。
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次年度使用額が生じた理由 |
現在、若手看護師の音声データの逐語録作成を業者に委託しているが、まだ終了しておらず、平成26年度中に支払う予定だった費用が未払いである。 さらに、平成26年度までに複数の質的研究を実施し、かつ共感援助尺度(ESB14)からESB14 ver.2と改善したが、この尺度の因子構造では、教育プログラム効果検証に使用するには不十分であると改めて判断された。そこで新共感援助尺度(仮)の再開発を行う必要が生じ、次年度には看護師を対象に妥当性、信頼性を検証するための調査研究を追加実施する予定である。尺度再開発には経費が多く必要であるため、平成26年度の質的研究での経費を最小限に抑え、次年度の研究実施のために使用したいと考えた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成26年度の質的研究での逐語録作成にあたり、約10万円程度の支出が考えられる。 新共感援助尺度(仮)の再開発を行うにあたり、パイロットスタディ後、日本各地の総合病院で勤務する看護師を対象に調査を行う予定である。そのサンプル数は1000から1500程度と予測され、同じ数以上の尺度等の印刷費用、研究参加依頼のための旅費と尺度配送費用、さらにデータ入力を業者に委託する予定である。
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