本研究は、在宅での看取りを推進するためにグリーフケアの一部である予期悲嘆への支援に焦点を当て、在宅で看取りを行う家族への介入モデルを開発することを目的としている。29年度は、これまでの事例研究を継続的に実施し、在宅で看取りを行う家族を支援する訪問看護ステーションの看護師で、予期悲嘆尺度を主介護者に実施してもらい、研究者が面接し、尺度の回答への意見と実施した看護について、質的統合法(KJ法)を用い事例毎に分析した。29年度の結果の一部は以下である。 慢性呼吸不全のターミナル期のA氏(80代)の家族に対する支援について、Y看護師(40代女性)は、「A氏のケースは、病気についての確信の話や死と結びつくようなことは敢えて言わない空気感があり、家族は本人の終末期が近いことに対してわかっているかどうか不明だったが質問票の回答によってわかった」と考えていた。このような暗黙の了解のままのケアは、特に非がん患者に多く当てはまると考えられ、家族の精神的なケアには尺度の活用が有効であると示唆された。 またT看護師(30代男性)は、2事例(C,D)の家族の予期悲嘆への援助について、「在宅での看取りは医師先導の予後告知が前提であり、看護師から看取りの話はできないと考えており、それ故、C事例では死という言葉に直接触れない関わり方をした。それは死を示唆するような言動に対して怒りの反応が懸念され、質問票に躊躇するからである。対照的にターミナルを受容していると判断したD事例では、病気に対する不満等も聞かれず、予期悲嘆が高くない結果は妥当と思うし、特別な心理的援助はしていない」というものであった。この結果より、看護師が「この家族には質問票を渡せない」と察知した気配が家族の否認の反応を捉えていることであり、これも予期悲嘆への援助であり、この場合尺度を使う必要はないことが示唆された。
|