研究課題/領域番号 |
25511018
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
堀江 有里 立命館大学, 国際関係学部, 非常勤講師 (60535756)
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研究分担者 |
金 友子 立命館大学, 言語教育センター, 嘱託講師 (20516421)
堀田 義太郎 東京理科大学, 理工学部, 講師 (70469097)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | アイデンティティの政治 / 差別 / エスニシティ / ジェンダー / セクシュアリティ / クィア / ヘイト・スピーチ |
研究概要 |
本研究は、マイノリティの権利を実現してきた「アイデンティティの政治」が、日本の社会運動研究、ジェンダー/セクシュアリティ研究やエスニシティ研究の領域で否定的に評価されてきた経緯を踏まえた上で、そのなかで取りこぼされてきた背景を振り返ることによって、その積極的な可能性を論じ、現代的意義を明らかにすることを目的としている。 今年度は、「アイデンティティの政治」概念や、マイノリティの権利を考察するにあたっての差別論研究(規範理論、社会学、神学等)などについての文献調査を中心に研究活動を遂行してきた。また、各分担(性的マイノリティの社会運動、在日朝鮮人の運動史、差別論の規範理論)での調査結果を中間報告としてまとめ、適宜、学会報告や論文執筆を行ってきた。これらの作業により、複数の研究領域に属する研究者との議論を踏まえたフィードバックを実施するのみならず、次年度に向けての共同研究としての計画を協議してきた。また、大学での在日外国人へのヘイト・スピーチについて、具体的な出来事を取り上げ、検討してきた。 各分担の共通点として浮かび上がってきたことは、現在の日本において、在日外国人や性的マイノリティに対する「ヘイト・スピーチ」(差別煽動行為)に対する対抗手段に「アイデンティティ」が用いられる現状である。これらは、「アイデンティティの政治」への批判が隆盛した1990年代の状況とは異なる社会状況のなかで起こっている現象でもある。そこから、あらたなかたちでのマイノリティ当事者の主張する「アイデンティティ」が差別・人権侵害の具体的な事象のなかで「呼び出される」ことによって喚起される対抗手段としていまだ有効であること、もしくは必然性を伴っていることを確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
文献調査を中心に置く初年度は「アイデンティティの政治」および「差別」をめぐる社会学・倫理学・規範理論・神学などの議論を追いつつ、それをもとに共同研究としての方向性について討議を積み重ねることができた。その蓄積を研究会で行ないつつ、また国内学会での個別課題の報告や論文執筆という形式での中間報告を実施することはできた。さらには、個別課題(大学でのヘイト・スピーチという事件)を事例とした取り組みも遂行してきたが、この作業と文献研究のあいだの明示的なつながりを確認することはできていないので、次年度の課題として残すこととなった。 プロジェクト全体としてのもうひとつの課題として、当初予定していた国内外学会等でのパネルセッションなどのプロジェクト全体での共同発表には至らず、個別報告に終始したため、この点についても次年度への課題を残すこととなった。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の文献調査では、「アイデンティティの政治」をめぐる批判および反批判に関する研究が英語圏でもかなり広範囲に存在することが明らかとなった。これらを踏まえて、今後はさらに文献調査および理論研究を継続して行く。また、社会学・倫理学・規範理論・神学等における学分野や、文化・社会運動にかかわる学際的な文献調査のみならず、「差別」に関する規範理論の検討や英語文献等の翻訳、国内外のヘイト・スピーチに関する事例の検討、具体的な社会運動の場面における資料の調査(在日朝鮮人の民族運動、性的少数者の市民運動)や、ポピュラー文化領域におけるフィールドワークをとおしての調査等についても進めていく予定である。 これらの中間報告は、適宜、学会発表、論文や研究ノートの執筆、招請講演などにおいて行い、研究や社会運動に携わる人々へフィードバックするとともに議論を経て、今後の各担当分野およびプロジェクト全体の研究の推進に反映させて行く予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
文献調査を中心に研究活動を継続し、プロジェクト内での各個別テーマによる中間発表をいくつかの学会大会において個別に実施した。そのため、当初予定していた国際学会への旅費・宿泊費・学会参加費を使用することなく、次年度に持ち越すこととなった。 文献調査のための書籍等購入のほか、フィールド調査の経費支出、国内外の学会での研究報告を予定している(交通費・宿泊費・学会参加費等)。国際学会に関しては、性的マイノリティに関するプロジェクトにおいて、"Crossroads 2014: the 10th Crossroads in Cultural Studies Conference"(2014年7月/於・フィンランド・タンペレ)にて日本におけるクィア理論をテーマとしたパネルセッションにて研究報告を行う。 また、さらには、ヘイト・スピーチに関するシンポジウムを開催するなど、研究成果を市民に還元するための企画に必要な経費として使用する予定である。
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