研究課題/領域番号 |
25540152
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研究機関 | 関西外国語大学 |
研究代表者 |
中谷 英明 関西外国語大学, 外国語学部, 教授 (20140395)
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研究分担者 |
芝野 耕司 東京外国語大学, アジア・アフリカ言語文化研究所, 教授 (50216024)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 韻律 / アーカイブ / ヴェーダ / 口承 / サンスクリット / インド古典 / 情報検索 / マハーバーラタ |
研究実績の概要 |
本研究は、従来文字コードのみに依存してきたアーカイブ検索に、文字表現とは異なる特徴量である韻律を採用することの重要性を実証することを目的とする。口承を正統伝承としてきたゆえにその主要部分が韻文であり、三千年以上の間、複雑多岐に韻律を発展させてきたインド古典は、韻律検索を備えることによって理解の格段の深化が見込まれ、本研究の目的達成に最適の素材と言える。 本年度は、インド最古の古典『リグ・ヴェーダ』(前1200年、1万詩)の韻律分析を行った。インド宗教史上また文学史上群を抜く影響力を有してきたこの聖典の韻律分析は19世紀末以来遂行されてきたが、なお十分の理解が得られていない。それは全てのインド韻律書が指摘する韻律の3音節単位に注意を払わなかったためである。中谷はこの3音節単位の持つ重要性を夙に指摘し(“Metre and Euphony (Sandhi) in the Nilamata-Puraṇa.", A Study of the Nilamata, pp.295-339. University of Kyoto, 1994)、その後、それがインド韻律の内的動態と史的展開の理解の鍵を握ることを確認した。 本研究が付加する韻律検索はこの3音節単位によって韻律を記述するが、このような視点からの解析は従来皆無であるため、全面的見直しが必要である。『リグ・ヴェーダ』の版本はAufrecht版(1877)に基づいて韻律の視点から改訂したvan Nooten版、Thomson版等があり、いずれもオンライン版が存在するが、これらのテキストは画面上の表現形はほぼ一定しているものの、入力方式は全く統一を欠いており(例えばアクセント表記はユニコード文字が在るものはそれを使い、無いものは追記方式とするなど)、本年度はその確認作業に追われ、研究を1年間延長せざるを得ないこととなった。来年度はこの入力方式確認後、3音節単位に基づくN-gram解析を行う。さらに叙事詩『マハーバーラタ』(7万5千詩)の解析を実施し、両本の韻律検索アーカイブを作成する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
インド古典文献のデータベースの質が多様であり、一文献内においてさえ入力方式が一定していないため、作業量が予想以上に増加し、若干の遅れを来している。このことは当初からある程度予測されたことであったが、実態は予測を遥かに超えており、標準化に時間を要することが判明した。ただしこの標準化作業の中で新たに発見された韻律動態(韻律的要請に基づく1母音の2母音へのレゾリューションなど)も見られ、標準化作業が必ずしも補修作業ばかりではないことも分かった。そこで1年間の研究期間延長を申請し、認められたので、より広範囲でより正確な韻律理解に基づいたアーカイブ検索の作成に向けて研究を継続している。
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今後の研究の推進方策 |
インド古典中の最重要文献である『リグ・ヴェーダ』と『マハーバーラタ』の2文献を優先し、まずこれらの韻律検索アーカイブを構築する。さらに『アタルヴァ・ヴェーダ』、プラーナ文献、ダルマ文献にもできる限り速やかに韻律検索を付与することに努める。
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次年度使用額が生じた理由 |
アーカイブ構築の基礎データであるインド古典諸文献のデータベースの質が多様であり、一文献内においてさえ一定していないことが判明した。これは実際に各文献の全使用文字を調査した結果、判ったことである。このような事態は予めある程度予想していたが、その程度が予想を超えており、データベースの精度を一定に保ちつつ、より広範囲の文献をカバーするアーカイブを構築するために1年間の研究延長を申請し、承認された。
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次年度使用額の使用計画 |
インド古典諸文献の標準化のためのアルバイト謝金、コンピューター購入費、成果を発表するための国際学会参加旅費等として使用する予定である。
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