研究実績の概要 |
本研究は、従来文字コードのみに依存してきたアーカイブ検索に、文字表現とは異なる特徴量である韻律を採用することの重要性を実証することを目的とする。インド古典は口承されてきたためその主要部分が韻文であり、種々の韻律を三千年以上の間、多岐に発展させてきた。制作年代不詳の文献が多いインド古典にあって、韻律検索は、文献発展史の解明、1テキスト内の層分け等に確かな手掛かりを与えるものとして、極めて大きな力を発揮するものであることが判明した。これによって諸文献の理解が大幅に進化することが見込まれる。 本年度はインド最古の古典『リグ・ヴェーダ』を始め、『アタルヴァ・ヴェーダ』、叙事詩『マハーバーラタ』等の韻律分析を行った。インド聖典の韻律分析は19世紀末以来遂行されてきたが、なお十分の理解が得られていない。それは全てのインド韻律書が指摘する韻律の3音節単位に十分な注意が払われなかったためである。中谷は先にこの3音節単位の持つ重要性を夙に指摘し(“Metre and Euphony (Sandhi) in the Nilamata-Purana.", A Study of the Nilamata, pp.295-339. University of Kyoto, 1994)、それがインド韻律の内的動態と史的展開の理解の鍵を握ることを確認した。今回の研究が付加する韻律検索はこの3音節単位によって韻律を記述するが、このような視点からの解析は従来皆無であるため、全く新しい視野が開けたと言える。今後、更にこの3音節単位による韻律分析を深化させたい。
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