研究課題/領域番号 |
25540171
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
小木 哲朗 慶應義塾大学, システムデザイン・マネジメント研究科, 教授 (00282583)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 3Dコンテンツ / ドーム映像 / プラネタリウム / スポーツ映像 |
研究概要 |
本年度は、多眼カメラ映像を用いたドーム映像の制作手法として、360度の全天周映像の撮影手法と投影環境に合わせた映像投影技術を組み合わせることで、ドーム用実写コンテンツの制作手法の構築を行った。この方法では、6台のデジタルビデオカメラを立方体状に配置した360度カメラを使用し、全天周映像の撮影を行い、6方向の撮影映像から音声による同期を取りながらステッチング処理を行い、パノラマ映像の合成を行う。このパノラマ映像から使用するプロジェクタの画角、投影方向に応じた映像領域を切り出し、魚眼プロジェクタに送ることでドームスクリーンに投影を行う。この方法では、中間データとしてパノラマ映像を使用することで、投影系のシステム構成に依存しない全天周映像コンテンツの制作方法とすることができる。 ドーム映像の立体感表現手法に関しては、特に重心感覚に対する違和感に関する心理物理実験を行い、コンテンツに対するカメラワークの制約条件の検討を行った。ドーム映像では、カメラの撮影方向とスクリーンに対する投影方向が異なると、現実の重心方向と映像上の重心方向のずれにより、鑑賞者は映像体験時に違和感を感じることがある。実験ではパノラマ映像からの切り出し方向を変えながら、投影映像に対する違和感に関して被験者実験を行った。この結果、水平面が前方に下がっていく映像に比べ、水平面が目の前に持ち上がる映像は、鑑賞者により大きな違和感になることが示され、許容範囲としては15度程度までに留めるべきであることが示された。 また本研究では、実写ベースの映像コンテンツとしてスポーツ映像の臨場感観戦等を想定しているが、本年度は予備的な撮影として、日本プロバスケットボールリーグ(bjリーグ)の試合の全天周映像の撮影実験を行い、カメラ位置に関する評価を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は研究計画として、(1)多眼カメラ映像を用いたドーム映像制作手法の確立、(2)実写ベースのドーム映像における立体感表現手法の体系化、を掲げた。 (1)のドーム映像の制作手法に関しては、6台のカメラ映像からパノラマ映像を合成する前半部分は概ね計画通りに実施を行った。後半のパノラマ映像からドームスクリーンに投影する処理に関しては、当初はオフラインレンダリングによる歪補正の手法を用いる計画であったが、視点の上下位置が大きくずれない限り、プロジェクタの投影領域に合わせてパノラマ映像から必要部分を切り出す方法でかなり近似ができることが確認され、またこの方法の方が処理が早いことから方法の変更を行った。一連の制作手法としてはフレームワークを確立することができ、概ね予定通りに進捗している。 (2)の立体感表現手法の体系化に関しては、検討項目が多く全体を体系化することは困難であるが、本年度はカメラワークと重心感覚の関係に絞って心理物理実験による検討を行った。この提案手法では、撮影映像は360度の全方向映像を撮影するため、投影時の切り出し方法によりカメラワークに対応する演出を行うことができる。実験の結果、カメラの上下方向の変化が重心方向のずれに依存する違和感につながることが示され、カメラワークに対する一つの制約を示すことができた。その他のカメラワークに対しては、継続して検討を続けていく予定である。 また研究成果に関しては、日本科学未来館で開催されたサイエンスアゴラ、埼玉県立総合教育センターの一般公開等でデモンストレーションの機会があり、多くの来場者に体験してもらうことができた。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で実写ベースのドーム映像の制作手法をある程度確立することができたため、来年度は実際のドーム用コンテンツの制作を通して、立体感表現手法に関する更なる検討、およびコンテンツに特化したより効果的な表現手法についての検討を行う予定である。 立体感を増強させるための方法としては、360度カメラで撮影された単一の全周映像を利用するだけではなく、撮影映像に、動きのある他の映像要素を合成したり、CG映像を合成することで任意の運動面を知覚させる方法等の効果について検討を行う予定である。これらの方法は、コンテンツ制作時の全周映像の編集方法として確立していくことが考えられる。 また映像コンテンツの制作に関しては、本年度に引き続き日本プロバスケットボールリーグに撮影協力を依頼すると同時に、慶應義塾大学の体育会に協力を依頼し、アメリカンフットボール等の他のスポーツに関する映像撮影を行い、効果的なカメラ位置等の撮影方法やドーム投影時のカメラワーク等に関して検討を行う予定である。これらのドーム映像のコンテンツは実験映像として制作するだけではなく、大学の体育会主催で行われている「アメフトフェスティバル」等の実際のスポーツイベントと連携させることで、観衆に与える効果等についても検討を行っていきたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の申請額より交付金額が減額されたため、物品費としては全方向デジタルカメラの購入だけの予定であったが、申請後に今回購入した低額の全方向デジタルカメラFreedom360が販売されたため、購入機器の機種を変更した。 当初の申請時に予定していたグラフィックス計算機を次年度に購入する予定である。また研究成果の発表のための旅費は、計画通りに使用する。
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