本研究では、実写映像を用いたドームコンテンツの制作手法の開発を行った。この方法では、6台のデジタルカメラで構成されたマルチカメラシステムで全周映像を撮影し、ステッチング処理によりパノラマ映像を生成する。このパノラマ映像の段階で、ストーリーに従った映像素材の編集や、CG映像との合成処理等を行い、完成したパノラマ映像をもとに、再生時にカメラワークの効果を施しながらドームスクリーンへの投影を行う。特に今年度は撮影、編集、投影を通しての立体感表現手法についての整理と、種々のドーム用コンテンツ映像の制作を通しての本手法の評価を行った。 これまでの研究から、ドーム環境の中で立体感を表現するためには、ユーザに対して仮想の運動面を提示することが効果的であることが分かってきた。CGやアニメコンテンツではシーンの中に意識的に運動物体を入れ込むことが可能であるが、実写映像の場合には自由なシーンの構成が困難である。そのため、必要に応じてカメラワークやテロップの挿入等を用いる方法が考えられる。例えば、カメラを前方に進めながらの撮影シーンでは、周辺視野の領域では後ろへ流れる仮想の運動面を感じることができる。また挿入したテロップを横方向へ移動する等の方法で、仮想の運動平面を感じ映像全体の奥行き感が増大されることが確認された。 また具体的なドーム用コンテンツの制作として、バスケットボールやアメリカンフットボール等のスポーツ映像、イタリア、マレーシア等の海外旅行映像、高円寺阿波踊りや花火大会等のイベント映像を用いたドーム用実写コンテンツの制作を行った。これらのコンテンツは、日本科学未来館で行われたサイエンスアゴラ、埼玉県総合教育センターのオープンハウス等を利用して一般公開を行い、多くの体験者による評価から提案手法の有効性を確認することができた。
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