本研究は、故伊藤明彦氏が、採録した<被爆者の声>の録音データの悉皆調査をおこない、他の文書資料と照合しながら、一つの資料群として確定するとともに、口述資料を現代史資料として整理するための新しいモデルをつくることを目的としている。 そこで最終年度にあたる、本年は、そこから二つの方向性を想定しながら、研究を進めた。まず、一つには、<被爆者の声>のデータそのものの活用方策を試行することであった。それは、実際に岩手県で採録された口述資料を小学校の歴史教育に活用した事例で、その調査を引き続いておこなった。その過程で、採録されたものとは異なる、採録者の被爆体験を記した文書を発見することができた。 そして、もう一つは、この資料群を確定するなかで、口述資料を組み込んだかたちの現代史資料を整理する際の新たなモデルづくりであった。つまり、他の現代史資料を調査分析する際に、この新たなモデルを応用することにつながっていく。この点において、本年は、岩手県遠野市史、及び岩手県北上市史の編纂委員として、実際の資料調査を行うに際して、特に個人情報との関連で、口述資料の保管と活用という視点から留意すべきことの検討をおこなった。特に、北上市史の現代史資料を構想するにあたっては、口述資料を蓄積するための事例として、戦後の北上市における、青年団の活動や運動に焦点をあわせて、まず、文書資料を活用してその諸相を明らかにした(「地域における文化運動の諸相ー戦時から戦後へー」平成28年度北上市民大学ゼミナール地元学部での講演、2016年10月)。ここでの文書資料群を軸に、次に、聞き取りによって、口述資料を蓄積し保管していく予定である。これまでの<被爆者の声>の悉皆調査と分析によって得た新たなモデルを社会的に還元していくことにつながっている。
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