研究課題/領域番号 |
25590264
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
杉崎 哲子 静岡大学, 教育学部, 准教授 (30609277)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 書写指導 / 漢字学習 / 持ち方 / 書き進め方 / 筆圧 / 握圧 / 字形 |
研究概要 |
平成25年度は、初めに小学校学習漢字の読み書き調査(2003総合初等教育研究所)の「書き」の誤答1006字の結果に、自身の指導した児童や補習校の児童等の「書き」の誤答実態を合わせて、再度詳細な分析を加えた。その結果、字形認識(見方)と運筆動作(書き進め方)の両面に関する課題が明確になった。字形の平易な漢字から徐々に難易度を高めて学習させたいが、系統的に学習できないため、学年別配当の枠内で既習の漢字や部分を生かした展開を検討した。 次に、上記の研究をふまえ発達段階を考慮して「筆使い・基本点画の意識づけ」「比較による違いの明確化」「流れや関連の重視」「仲間(主に部首)によるとらえ」という観点でチーム編成するという画期的な指導法を提唱した。さらに実践化のため1006字全てを掲載した教員向けの書籍を発行した。例えば混同しやすい「小」と「水」、「火」と「天」とを並べて取り扱い、比較や字源の紹介によって字形をはっきりさせたり、「八、入、人」の上部の点画の接し方(つくか、つかないか)を明確にしたり、点画を唱えて「書き進め方」を印象づけたりする等の具体的手立てを示すことができた。 一方、運筆動作については、まず書体の変遷を辿る字源的検証を進め「筆順」の意義を確認した。続いて手指の自然な動きという視点から「書く過程」をとらえ直すため、持ち方の違いによる筆圧・握圧の調査を行い「書き進め方」と「持ち方」との相関性を検証した。その結果、書写の検定教科書が示す「望ましい持ち方」が三指の機能を効果的に生かし、あらゆる方向への自由な動き、スムーズな「書き進め方」を可能にすることが明確になった。チェンナイ補習授業校では調査協力だけでなく、「水書シート」による基本点画の確認や部分の組み合わせのカード化、iPadの活用による筆記具把持のストレス除去などの、展開の工夫にも協力いただいて探究を進めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた通りに、小学校学習漢字の「書き」の誤答調査の再分析によって、字形認識に関わる課題とその克服のための字形指導の基本形を明確にできた。莫大な量を取り扱ったが、着実に分析を積み重ねていったため課題を浮き彫りにでき、これをもとに国語科の領域である「書字」と「書写」とを融合的にとらえた独自の指導理念を確立できた。日常に生きる書写指導という意味で、漢字学習と関わらせた本研究の意義は非常に大きいと考える。 子どもたちを取り巻く文字環境の著しい変化に伴う「書き」の力の低下は、重大な問題である。また、グローバル化の現在では、海外生活を余儀なくされ漢字の「書き」に悩む児童が激増している。チェンナイ補習授業校は準全日制のため、1回の訪印で2時間ずつ5日間関わることができることから、4月の渡印で入念に打ち合わせをし、8月と3月との2度の訪問により実態調査や模擬授業を集中的に行った。この理念をまとめたものが開発論集に掲載した論文であり、この研究成果を現場に生かしてもらえるよう教員向けに指導法を分りやすく解説した書籍も発行することができた。 さらに運動面においても基礎研究を重点的に進め、手指の自然な動きのために持ち方が重要であることを明確にできた。「書き進め方」の運動面に関する今回の調査や検証は、これまでの概念的なとらえを科学的データで裏付けした点において非常に意義深く、今後への発展性が確実に期待できるもので、想定以上の成果である。以上のように内容と方法、そのための基礎研究をじっくり行ったため十分に達成が認められる。
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今後の研究の推進方策 |
書かれた文字と規準との比較では、結果を基に「上手く書ける人」の立場から見ることになる。学習者の立場を意識し、「うまく書けない人」に寄り添い書き進め方のポイントを示した運動面の指導が重要になる。また、現在、デジタル教科書やパワーポイント使用の教材、DSの漢字習得ソフトなど、漢字学習や特別支援教育の目的で出されているデジタル教材も多く出回っているものの、これらも認識面での指導に留まっている。したがって、授業展開とそれを助けるデジタル教材の両方において、「書く過程」への意識を強化した指導法の開発が求められている。 平成26年度は、電子黒板で活用できるようなデジタル教材を開発し、「書く過程」へのアプローチを示す。既に効果が確認されているiPadやタッチパネル等による認知だけでない運動面への支援効果に加え、立体的な字形および図形の理解を助けるモデル化・可視化の優位性を生かして、「書き進めやすさ」を探究したいと考えている。特に点画の「つながり」や「筆圧」「握圧」に対する意識を強化する三次元モデルの教材は、書く過程に着目した本研究の主軸となるものである。 そこで、まず既存のデジタル教材に精査を加える。これと併行し、三次元モデルに等しい機能の示唆される「毛筆」についての教具としての有効性を検証する。これは書写書道関係団体が要望する小学校第1学年からの毛筆学習導入という今日的課題と直結した重大な研究である。 ただ全漢字を取り扱うことは予算的に厳しい。そこで、特に基本学習が重要な入門期等の導入的部分の教材作成に絞って取り組む。とはいえ質的には完成度を高めたいため、本学内にIT機器を据えて自前で作成するのではなく専門業者への依頼を考えている。この点において研究開始当初とは予定を変更し受注費用を捻出する都合上、平成25年度は物品購入を抑え、その分を平成26年度に繰り越している。
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次年度の研究費の使用計画 |
小学校の学習漢字1006字の全てについてデジタル教材化することは、時間的にも予算的にも厳しい。そこで、特に基本学習が重要な入門期等の導入的部分の教材作成に絞って取り組むことにした。ただ、その部分の質的な完成度は保障したいと考えたため、本学内にIT機器を据えて自前で作成するのではなく専門業者に依頼することにした。この点において研究開始当初とは予定を変更し受注費用を捻出する都合上、平成25年度は物品購入を抑え、その分を平成26年度に繰り越した。 上記の理由により、物品購入を極力抑え、デジタル化は専門の業者に依頼する。また、インドのチェンナイ補習授業校に出向いて実践研究を実施する。チェンナイ補習授業校ではこれまでも、児童に対するインクリングを使った筆圧測定や保護者、教員に向けてのヒアリング調査、また模擬的な授業実践などにご協力をいただいている。、実践化の手立ての検証に関しては、通常の国内の学校では授業時数や担当教員の業務との関係によって実施が難しいため、今後もチェンナイ補習授業校にご協力いただく。
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