これまで書写や書字の研究では、書かれた結果である字形を問題にすることが多かった。それに対して本研究では、期間全体を通じ、認知と運動との両面から「書く過程」に着目した効果的な指導を検証した。 特に平成27年度は運動面に焦点を当て、「筆記具の持ち方」が「書き進め方」にどのように影響するのかを、工学機器による調査を実施し解剖学の見地も含めて科学的に検証した。その結果、児童生徒に多く見られる「親指の付け根で筆記具の軸を受ける」持ち方について、①あらゆる方向に書き進めるという場合に手指の動きが拘束されて不都合であること、②うまく紙面に加える力(筆圧)に活かせず筆記具を握る力を(握圧)を必要以上に加えるために手指の疲労感が増すことの二点が明らかになり、更なる持ち方の崩れに結びつくという悪循環が見えてきた。これにより、検定教科書等に示されている「筆記具の軸を人差し指側面に当てる持ち方」の有効性が明確になった。 また、左利き児童への指導法の確立を目指して、左手書字についても科学的に調査した。その結果、右手書字の場合と同様に、筆記具の軸を親指の付け根ではなく人差し指の側面にすることの重要性が明らかになった。さらにペン先を体の体面に倒したり、薬指を使用したりする方法が効果的であることも示唆された。 認知面では、入門期や特別支援教育に活かせるよう、平仮名・片仮名指導用の教材を書籍にまとめた。この教材では、身近な物のイラストで動きをイメージさせて学習の動機づけにし、口伴奏付きの「動きのトレーニング」によって書き方を容易に習得できるよう配慮した。さらに「文字を書く」ことの本質を考え、生活の中で言葉が育つよう言葉遊びを交える等の工夫も加え、海外の日本人学校や本学の附属特別支援学校での実践において、言語活動の充実にも貢献できた。この成果は電子黒板対応の動画アプリ等に活用できるため、今後の発展性が見込まれる。
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