研究課題/領域番号 |
25610082
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
井原 慶彦 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (80598491)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 超伝導近接効果 / 有機超伝導体 / 核磁気共鳴分光法 |
研究概要 |
本研究では超伝導体の表面に金属を蒸着して超伝導-金属接合を構成し、近接効果により常伝導金属中に染み出した準粒子を核磁気共鳴分光法を用いて直接観測することで、金属中における超伝導準粒子状態を微視的な観点から明らかにすることを目的としている。本研究目的の達成のためにはまず、蒸着条件を最適化し超伝導試料に再現性良く超伝導-金属接合を形成する必要がある。申請者は平成25年度の研究において新たに導入した膜厚計を用いて金属薄膜の膜厚を制御した試料の準備を行った。さらに、作製した複数の試料についてNMR測定を行った結果、膜厚に依存して低温の核スピン-格子緩和率に変化が見られることを見出した。これにより、膜厚が超伝導近接効果を観測する上で重要なパラメータになっていることを明らかにした。この結果は超伝導準粒子が金属中に染み出すことが出来る長さに対する知見を与えており、準粒子状態の解明のための重要な情報となる。 また、申請者はNMR分光器の整備も行い、長時間安定して測定を継続できるシステムを構築した。金属薄膜からのNMR信号は微弱であるため、測定精度を向上させるには信号を長時間積算する必要がある。これまでのNMR分光器では長時間安定度に問題があり、十分な積算が出来ていなかったが、本年度の整備により安定度が改善し、測定精度が飛躍的に向上した。これにより超伝導転移温度以下で見られる核スピン-格子緩和率のわずかな変化も精度よく捉えることが出来るようになったため、次年度以降の研究に大きく貢献する成果となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者は研究の初年度において有機超伝導体の表面にアルミニウムを蒸着するシステムを整備し、膜厚を制御したアルミニウム薄膜の作成を再現性良く行うことに成功した。また、準備した複数の試料についてNMR測定を行い、膜厚に依存して低温で見られる核スピン‐格子緩和率の挙動が変化していることを明らかにした。これらの研究結果は本研究の最終目標を達成する基礎となる成果であり、初年度の研究成果により本研究の最終目標である金属中に染み出した超伝導準粒子状態の解明のためには、膜厚を調整した試料のNMR測定を遂行する必要がある、という指針を立てるに至った。従って、研究の初年度における研究の基礎固めが滞りなく遂行されており、本研究がおおむね順調に進展したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度に得られた成果により、膜厚を最適に制御した試料についてNMR測定を行う必要があることが明らかになった。次年度においてはまず、最適な膜厚を持つ試料のNMR測定を行い、超伝導転移温度以下で見られる準粒子状態の変化についての成果をまとめる。同時に、銅酸化物高温超伝導体の表面にもアルミニウム蒸着を試み、異なる超伝導試料においても同様の現象が観測されるかどうかについて明らかにする。有機超伝導体では試料が脆いため結晶面を制御することが難しかったが銅酸化物高温超伝導体では試料を研磨することで自由に蒸着を行う結晶面を選択できるため、様々な結晶面に蒸着を行い、異方的超伝導体における近接効果の角度依存性について研究を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
申請者は3月に開催される日本物理学会への参加を予定しており、そのための出張旅費として56,652円を使用する計画だったが直前で参加を見合わせたため、残額を次年度使用額とした。 平成25年度に生じた次年度使用額は、平成26年度における日本物理学会等への参加のための出張旅費として使用する予定である。
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