本研究は核磁気共鳴分光法を用いた超伝導近接効果の観測という新たな実験手法を開発し、それを未知の超伝導体に適用することで、超伝導対対称性など超伝導の様々な性質を解明することを目的としていた。研究実施期間内には主に有機超伝導体に対して表面にNMR分光実験が可能な金属を用いて薄膜を作成するシステムを開発し膜厚を精密に制御した環境下でのNMR実験を行った。その結果、一定の膜厚以上では超伝導近接効果により金属中に染み出した超伝導準粒子の効果が見えなくなることを明らかにした。これはNMR分光実験により超伝導準粒子の金属状態での寿命を測定可能であることを示しており、非常に重要である。一方で、この結果はNMR分光法を用いて超伝導近接効果を観測するためには非常に薄い薄膜を準備する必要があることを示しており、原子核の数に比例してNMR信号強度が減少するNMR実験に対しては超伝導近接効果に有利な状況が測定の観点からは不利になることを意味している。そこで、研究期間の後半ではNMR分光器の感度向上を行い、これによりこれまでより1ケタ以上高い精度での観測を可能にした。また、薄膜に対するNMR測定の準備と並行して近年新たな超伝導発現機構の可能性が議論され注目を集めている電荷秩序近傍で実現する超伝導のバルク状態を対象にした物性解 明を行った。その結果、電荷自由度に起因する新たな超伝導発現機構の可能性が示唆されるため、今後はさらに本研究期間で確立した薄膜に対するNMR分光実験を適用し、新たな超伝導状態に見られる特異な性質を明らかにしていく予定である。
|